今年は、新渡戸稲造の生誕150年。
国際連盟事務次長を務めた、近代日本を代表する国際人だ。
新渡戸は若いころ、演説が大の苦手だった。
とにかく震えが止まらない。「聴衆はただの椅子」と思いこんではいるが、
よく見れば、やはり人の顔。
「聴衆は気心知れた友ばかり」と思ってみても、
実際は面識もない人ばかり。
「聴衆を飲み込んでやれ」と思うほど、
自分がのまれる気がしたーー新渡戸稲造全集第6巻。
その彼が吹っ切れた瞬間がある。
「演説をほめられたい、あるいは、自分がよくいはれたいと色気があればこそ、
恐れ戦うもの」
なるほどと思った。
心をつかむ対話は、策や技術からは生まれない。
誠心誠意、ベストを尽くして信念を語る姿に、勝るものはない。