雲がふよふよと漂う青空の下、道路を横断する子猫が一匹。
可愛らしくままならない足取りで道路の中腹まで来ると、そこに運悪く走ってくる一台の軽トラック。
子猫は自身に向かってくる大型トラックの急接近に脅えて、道のど真ん中で硬直していた。
一方、運転手は子猫に気付かず、一向にスピードを緩める気配がなかった。
だが、それを見た少女は躊躇《ためら》う事無く車道に飛び出す。
「ネコちゃん、駄目!」
そう叫びながら少女は子猫を抱き上げる。
少女が飛び出した事にトラックの運転手も気付き、慌てながらもようやくブレーキをかけ始めた。
その時、一人の少年が駆け出す。
「とぉっ!!」
なんとも気の抜けたかけ声で自分よりも少々背の高い少女をほいっと歩道へ投げる。
だが今度は6歳ほどの少年が命を落とす危険に陥る……なんて思った時には既にトラックは止まっていた。
なんと少年は手で軽トラックを受け止め、足で踏み止まっている。
「この程度なら何度だって経験あるんだ」
「……あ、危ない!!」
子猫を抱き上げ、唖然としていた少女が少年に叫ぶ。
軽トラックの荷物を括っていたロープが千切れ、鉄骨が少年の頭部に直撃するのだった。
河原
住宅地のすぐ近くの河原であるが生い茂る植物が川の水を塞き止め、鉄柵を飲み込んでいる。
原因はすぐに分かった。 人の形をした銀半透明の異形達がうねうね踊れば次々と植物が生えてくるのだ。
「うわぁ……なにこの大自然」
この場に唯一居た一人の少年……空箱《からばこ》 聖愛《せいあ》が呟く。
そして頭部には瘤《こぶ》を作っている……彼は先程の少年。
鉄骨が落ちてきてもたんこぶができるほど丈夫のようだ……。
容姿は黒目黒髪、6歳ほど、少女にも見える中性的な顔立ちだ。
あれから5年……実年齢は8歳、小学3年生である。
「ってどうせそこのフォルスのせいか……」
聖愛は不機嫌そうに銀半透明の異形をフォルスと呼んだ。
どこからか取り出したアクセサリーを握るとそれは大剣に変わり、フォルスと呼ばれた異形に立ち向かうのであった。
数分後
草木は残ったままだが銀半透明の異形ことフォルスは全て倒し尽くし、聖愛は「ふぅ」と溜め息を吐いた。
「おー、セアちゃんお疲れぇ」
聖愛をセアと呼ぶのは活発そうな10歳ほどの少年だった。
この時期は春だと言うのに褐色に焼けた肌、黒毛混じりの金髪、つんつく立たせた髪型。 顔は整った美形だ。
「ちゃん付けで呼ぶなよ楓《かえで》……」
「お前が可愛いから悪い。 セアたんは俺の嫁」
青年は聖愛とは幼馴染みであり、クラスでも一度として別のクラスにならない程の腐れ縁だ。
「貞操の危機を感じるよ……」
「良いじゃねぇか、幼馴染みなんだし」
「良くねぇよ!!」
こんな二人だからBL好きな少女達はキャーキャー言うのだが、楓は寧ろそれを喜んでいる。
実際、楓は聖愛を除けば基本的に女の子のが好きで何股もかけているらしい。
「それはさて置き、ちゃんと【神楽神子《かぐらみこ》】の一族としての仕事はこなしてるようだな」
「俺は一族じゃねぇけどな……」
「神楽神子の一族……この世界では先程のフォルスなど表世界には出せない存在を排除する神に仕えし一族。
まるで神に捧げし武器で舞うように裏世界で戦うことから神楽神子と呼ばれた……かぁ。
今やあまりにも人材不足で関係無い奴まで神子として戦ってるしな」
「今は神により創設された組織『采《ダイス》』に所属されてからはどの神に仕えてんだか……」
聖愛は肩をすくめた。
「それより楓は何しに来たんだ?」
「女《おにゃ》の子とデートしに」
「そうか……昨日もだったのに……。 何股かけてんだ……?」
「20人程だ。 大丈夫、一番好きなのはセアちゃんだから」
「俺は女じゃねぇ……!!」
――てってけてけてけてってって~……。
そんな着信音に楓はハッとして携帯を見る。
「おおっと、 セアたんから寝取った幼馴染3人組との時間に間に合わなくなる!?」
「何を言ってんだコイツ……? 幼馴染って言えばお前だろ?」
「っぐふ!? さ、最高のご褒美です!!
デレデレの天音《あまね》
ヤンデレの優衣《ゆい》
ツンデレの鏡花《きょうか》!!
みんな待ってろー!! ……絶対待て、セアたんのエロ写真は俺の物だぁぁああああ!!」
「なんだコイツ……」
それに答える相手はとっとと走って行ってしまい、誰もいなくなった。