真っ暗な闇夜を照らす満月は雲に隠れ、街頭はチカチカと切れかけていた。
そんな道を買い物袋を下げて歩く聖愛はある店に気付き足を止めた。
『雑貨店クァコリス』
裏路地にひっそりとある……なんとも怪しい店だ。
「こんな店あったんだ……って感じな魔法がかけてあるみたいだなぁ……」
扉に付いた鈴を見ながら聖愛は呟く。
躊躇《ためら》わず聖愛はドアノブを開けて入れば、中は外よりは明るいがかなり薄暗かった。
誇りっぽく天井や吊り下げられた照明に蜘蛛の巣が張られ、歩くだけで足跡が付くほど見るからに手入れされていない。
棚にある商品もごちゃごちゃで並べてすらいなかった。
「すみませーん、どな_……いた」
床の上にローブを被った人がまるで死んだように倒れていた。
「生きてますか?」
「お腹減ったよぉ……ひもじいよぅ……」
どうやら生きているようだった。
『雑貨店クァコリス』に嗅ぐだけでお腹を減らさせる香辛料の香りが漂う。
埃っぽかった部屋は一掃され、床は艶やかに輝き、商品は綺麗にならべられていた。
「――ここ、どこ……? ふゎぁ……良い香りぃ~……」
ローブを被った人は呟いた。
「あ、起きた?」
「ふぇ……!?」
目の前の少年……聖愛に思わず気の抜けた声を上げるもすぐさま雰囲気を変えて口を開いた。
「――む? お客さんかな?」
怪しげな雰囲気だ……だが、先程の様子で威厳もへったくれも無い。
「えっと……まぁ、そうですね。 汚いから思わず掃除しちゃいましたけど……」
「それは……すまな_開店当初よりも随分と綺麗なんだが……?」
床は艶やかだがニスを塗られた様子は一切無く、ほのかに木の優しい香りがした。
「きっと気のせいか、木の精が復活したんですよ」
「え……あ、そうか?」
「厨房もあったのでご飯も作りました。 何日も食べてないようなんでスープからどうぞ?」
「えっと……感謝する」
聖愛は木製の椅子に腰掛けるよう椅子を態々引いてくれた。
「『雑貨店クァコリス』のドアや商品、照明にかけられた大抵の魔術は随分と強力な神力が力を感じます。
商品から漂う魔力は全てあなたの魔力のようですが、何者ですか?
それと自分は空箱《からばこ》 聖愛《せいあ》です」
「――くっくっくっく、随分と調べたようだな」
「いえ、感覚的に気付いただけですけど?」
「そ、そうか。 とりあえず名乗るならば『契約の神』とでも言っておこう」
ローブの人物は契約の神と名乗るが、さっきから威厳は無い。
「やっぱり神か……」
「それより君は何者だ? 魔力は無い、特殊な能力は無い、覇気もない。
本来、この店は私が招いた存在以外は見つける事ができないのだが?」
「『采《ダイス》政府』と言う場所で修業した普通の人間ですよ?」
首元に刻まれたサイコロの印を指さして言う。
「一見は刺青《いれずみ》だが、複雑な術式の中に『因果神の加護』が宿っているようだな。
だから私の力を無視して見つけることができたのか」
「っと言うより『因果神の加護』は死に掛けの人とか助ける為の加護ですよ」
「死に掛け……」
契約の神は何とも情けない気分になった。 そして料理を食べ切り、口を開いた。
「とても美味かった、礼を言う」
「いえいえ~」
「いや、礼は商品で返そうか。 媚薬を_」
「いりません」
返事は即答だった。
「早いな……まぁ良いか。 それより君は銀の異形を知ってるかね?」
「フォルスですか? 知ってるも何も『采《ダイス》政府』の第一討伐ですから。
世界は壊すわ、わらわら増殖するわ、色んな能力を持ってるわ、実際は生きてすらいないわ……ですから」
「フォルス……意味は偽り、偽りの命か。
この世界の周辺にあった世界は大抵が壊されてしまったのは知っているかい?」
「はい、政府でも調べています」
「とりあえず壊れた世界同士を合わせて創った世界を君にプレゼントしよう」
「は?」
思わず聖愛は止まった。
「世界をあげようと言っている」
「普通の世界に生きる神様はホイホイくれるようなもんじゃ無いですよ……?
政府の神達ならよくある話ですけど……」
「ならそれぐらい気前の良い話だと思って貰ってくれ、随分と美味い食事のこともあるしな」
そう言って彼女が指を鳴らすと聖愛の足元が光り出し、彼はこの世界から消えた。
白い光が収まり聖愛が目を開くとそこは色が付いた水晶のような石や岩、そして巨大な岩がゴロゴロと落ちた広場であった。
「ここは……?」
のほほんと呟いていると目の前にある黒い水晶に気付いた。
そこには一つの金属で作られた本がはめ込まれていた。
「これ……ぅぁ!?」
【創世神に選ばれし我が世界の王……】
聖愛が触れると強く発光して声が聞こえた。
「な、なに!?」
【この世界の名は『ノスタルギア』、私はノアと申します】
聖愛と同じ程の年齢をした少女がお辞儀姿で現れる。
「ノスタル……ギア」
聖愛は世界の名前を心に刻む。
一方、目の前にいるノアと名乗った少女は顔を上げた時……顔色が変わった。
【……はぁ? あんたがこの世界の王なの? 頼り気のない顔ね。
女装させれば適当に女の子になりそうだし。
小さいし、なんかもっとカッコいい男のが良かったのにー、最悪ぅ】
完全に見下した発言に聖愛はあまりの態度に唖然として息さえ止めていた。
その時、どこからか契約の神が現れた。
「うゎっ!? どこから……って神様だからか……」
「ふっふっふ、どうかねこの子は?」
【契約の神様!! 何故こんな頼り気の無い女の子に!!】
「いつの間にか女の子扱いされてる!?」
「大丈夫、この男の娘なら」
「男の娘って……」
【そんな……何でこの私がコイツに使えなきゃ……】
ノアは苦虫を丼一杯に噛み潰したような顔を浮かべた。
「何なんですかこの子……」
「私と契約した性格捻子くれた女の子の魂や記憶とかそこらに留まる思念を集めて作った人間」
「性格捻子くれって……」
思わず聖愛は微妙な顔をする。
「えっと、第一王女だけど自分の地位を奪われるのを恐れて妹を暗殺したり?
自分は偉いってプライドが高すぎて醜い魔物(見た目はエロい)に変わっちゃったり?
処刑される寸前まで「なんで高貴なわたくしがこんな目に!!」とか言ったり?
美しさを求めてサキュバスやエルフ、吸血鬼みたいに美しい見た目の女の子を喰らったり?
主人公が好きな女の子が攫われた時に「その程度の女など諦め、私と結婚してください」とか言ったりかな?」
契約の神は「ホント、負け犬な女達だよー」と気の抜けた口調で話す。
「どんだけいっぱいいるんですか……」
【うっさいわね、それだけこの私を理解できない馬鹿が多いのよ】
フンッと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「そーねー、大抵は手足を切り落としたり、
アイアンメイデンにぶちこんでじわじわと殺したり、鉄の牛に放り込んだり、
眼球や脳ミソ、内臓に直接アレぶち込まれながら超回復させられたり、
そんなエログロイ目に合うような処刑方法されても良いような女の子ね?」
【ひきゅぃ!? 嫌な事思い出させないでくださいよ!!】
ノアは蹲ってカタカタと震えだす。
「ど、どしたの……?」
「さっきいったように彼女たちの記憶で作られてるの、だから処刑とか廃人にされるとか全部覚えてるって事よ~。
記憶の持ち主達が行った罪の塊だからね、つまりこの子の罪。 そういう訳で聖愛君の“奴隷”って事で?」
「【はぁ!?」】
思わず二人で驚いた。
「拒否権は認めなぁい♪ 永久奴隷のノアちゃんは永遠に不滅なの。
そもそもあなたの(記憶が)殺したりした人々は戻ってくるとでも?」
【それは……その……】
「まぁ、例え生き返らせる方法があろうが世界も全部どっかいっちゃったから助けるなんて無理だけどね?」
【そ、それでも横暴です!! っていうかそもそも彼女たちじゃない私は関係ないじゃないですか!!】
「散々自分勝手な事をしていた女の子は地獄のような処刑の挙げ句、無惨な死に方をしました。
さらには死して魂は囚われ、永久的に奴隷になってしまうのでしたー。 なのが良いのだよ」
【私は奴隷になるなんて嫌です!! そんなの認められま_】
【はふぅ~……もう永遠に聖愛の奴隷で良いぃ~】
顔文字で言う(*´ω`)な顔にして苺パフェを頬張るノアがいた。
聖愛お手製の苺パフェである。
「知ってるかい? どんな極悪美女でも所詮は料理男子には勝てないんだぜ?」
「何言ってるのさ……?」
契約の神がキリッとした顔で言い、それに突っ込みを入れる聖愛であった。