塩辛を食べながら寝落ちしていたんだ。
どうもはっきりとは思い出せないが、この状況から察するに僕はどうやらイカの塩辛を食べながら寝落ちしてしまっていたようである。
煌々と点けっぱなしになっている部屋の照明
ソファーで長時間横になっていた影響で凝り固まった身体
歯磨きしないまま寝てしまった日特有の口の不快感
そして、目の前にあるイカの塩辛。
そのどれもが僕が塩辛を食べながら寝落ちした事を裏付けている。
僕はまだ働いていない頭で状況を整理し、とりあえず
「…眠ってしまっていたのか」
と呟いてみる。
冒険漫画の主人公の様で何となく格好よくなるかなと思ったが、特に状況が好転することはなかった。
まあ、珍しいことではない。
二十歳を超えた大人であれば塩辛を食べながら寝落ちしたことの一度や二度くらいあるだろう。
僕は福島出身の田舎者なので初めての経験だったが、都会で生まれ育った人にとっては塩辛寝落ちなんて日常茶飯事かも知れない。
目覚めの中では悪い方だが、よくある事だ。
別に大したことじゃない。
しかし
しかしだ。
一つだけ僕が許容できないことがあった。
大抵のことを受け入れられる性格と脚の細さから『生まれたてのサンドバッグ』という異名でみんなに愛されているこの僕でも受け入れられない光景が、目の前にあった。
食べ始めてすぐに寝てしまったが故にほとんど手付かずだった塩辛のパックが
こたつ布団の上にひっくり返っているのだ。
つやつやした炊き立ての米の上に鎮座する塩辛はそれはそれは美味しそうなものだが
ふわふわしたこたつ布団の上に乗る塩辛はそれはそれはおぞましいものだった。
考え得るかぎり最悪の組み合わせだ。
懸命に拭き取ってみたが、臭いが全く取れない。
その匂いだけで白米が三杯は食べられそうなほどにしっかりと塩辛を感じられる。
臭いならばと信頼と実績のファ○リーズ先生を連射してみたが、目を閉じればまるでそこにいらっしゃるかの様にイカの塩辛様のご威光が衰える事はない。
僕の家のこたつ布団が、イカの塩辛臭くなってしまった。
もう少しかいつまんで言うと
僕の布団がイカくさい。
最悪である。
もしこの部屋に男子中学生がやって来たら「うわー!この部屋なんかイカくさくね!?」と狂喜乱舞しながらバカにされる。
そして次の日から学校でサンドバッグである。
幸いなことに僕の家に男子中学生が来る予定はないし、僕も中学校に登校する機会がないので読者のみんなにはそんなに心配しないでほしい。
しかし、友人を招くことはある。
料理を振る舞うことが好きな僕はよく我が家であびこ飯会を開催する。
招かれた友人の家がイカくさかったらどうであろうか。
何とも気まずい空気になるに違いない。
そして帰り道、僕のいない所で狂喜乱舞するに決まっている。僕ならそうする。
では部屋に入る前にあらかじめ「あ、うち今イカくさいけど違うからね」と言えば良いのだろうか。
逆に怪しくなかろうか?
というか僕はネットを通じて全世界に発信されるこのブログで何を語っているのだろうか。
どの層のファンが喜ぶのだろうか。
イメージ大丈夫ですかという心配とまたコメントしづらい記事を書きやがってというファンの皆様の顔が浮かんでくるようです。
しかし、僕はみんなの為に
これだけは伝えなくてはならないのだ。
イカの塩辛を食べながら寝るのはやめたほうが良い。
ご高覧ありがとうございました。
安孫子宏輔