母の罵倒、貧困にひとり耐え/連載・命はぐくむ | 教育問題備忘録

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いじめ110番
人権110番

12/22(金) 12:34配信 Web東奥


 「帰ってくるな」「おまえ、知らねえから」-。

 母から娘へ送られたLINE(ライン)の記録には、乱暴な言葉が並んでいた。

 スクールソーシャルワーカー(SSW)・三浦和之さん(40)は昨年、青森県下北地域の高校に通う井上マイ子さん=仮名=と面談した。高校の教員が「マイ子さんが泣きながら登校することがある。一度会って話を聞いてもらえないか」と、三浦さんに相談したのがきっかけだった。

 面談を重ねるうちに、マイ子さんは、教員にも話さなかったことを、打ち明けるようになった。母との不仲、その日の食事にも困る貧困状態…。

 母子家庭のマイ子さんは、アルバイトをして学費と生活費を捻出していた。幼い妹のために、食事の準備や掃除などをしていた。お金がないため、食事も我慢することもあった。

 母は、子育て放棄(ネグレクト)の状態だった。マイ子さんの言動が気に入らないと、LINEで罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせていた。

 マイ子さんの外見は、髪形も服装も、持ち物もごく普通。時折、明るい表情を見せる。教員が、三浦さんに相談しなかったら、複雑な家庭環境は分からなかった。

 「だれにも相談できず、悩みを抱え、地域に埋もれている子はいる。貧困などの家庭の問題を引きずっている子は身近にいる」(三浦さん)

 精神保健福祉士の資格を持つ三浦さんは普段、障害福祉施設で働く。週1回、むつ市内の高校で生徒の相談に応じているほか、要請があれば、他の高校にも足を運び、生徒の生活状況や悩みを聞き、ケースに応じて福祉制度を紹介している。修学旅行の積立金を滞納している子、親が出稼ぎで不在のため、自宅に1人取り残された生徒、発達障害の子…。抱える問題はさまざまだ。

 12月9日、弘前大で開かれた子どもの貧困に関するシンポジウム「教育と福祉の出会うところ」に、パネリストとして参加した田名部高校定時制(むつ市)の工藤清彦教頭(54)は、経済的に厳しい下北地域の家庭の現状を説明した。

 田名部高校定時制には生徒約80人が在籍。約7割がアルバイトなどの仕事に就いている。住民税非課税と生活保護を合わせた世帯は約半数、ひとり親家庭も半数以上に上る。

 生徒を対象に行ったアンケートでは、将来の夢や希望が「ほとんどない」「ない」が合わせて40%に上った。

 「貧困は学習意欲の低下、休学や退学などさまざまなマイナスの影響をもたらす。希望する学校があっても学費などが払えず進学できない。生活費を考えると自宅から通勤できる職場を選択せざるを得ない」と工藤教頭。「子どもの夢や希望が経済的な要因で奪われることがないように、早い段階からの支えが必要だ」と、参加した教員や福祉関係者らに訴えた。

 田名部高校定時制で毎年行われる生徒たちによる生活体験発表会では、「女手一つで育ててくれた母の負担を少しでも軽くしたい」「夢をかなえるため貯金をしたい」との声が聞かれる。

 前を向く子どもたちの姿を見ながら、工藤教頭は教育と福祉が連携した支援の必要性を一層強く感じる。

 SSWの三浦さんは最近、マイ子さんと接触できる機会が減ったことを気に掛けている。「どうしているかな」。100円ショップで買った化粧をつけ、努めて明るく振る舞うマイ子さんの姿を思い浮かべながら思う。「子どもたちの高校卒業後の道筋を付けてあげたい。将来を見越した支援ができれば」

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スクールソーシャルワーカー(SSW) 子どもを取り巻く生活環境に焦点を当て、教育と福祉をつなぐ支援を行うために学校などに配置される専門職。児童・生徒、保護者らが抱える諸問題の解決に向け、関係機関との連携・調整を行ったり、保護者や教職員の相談に応じてアドバイスする。県内には本年度、教員OB、社会福祉士、精神保健福祉士ら25人が配置されている。