『人生最大の恥』 あべせつ
大学一年の春。それまでのセーラー服から黒のスーツに制服が変わった。お化粧も解禁され、ヒール付きの真新しいパンプスに足を入れると、一気に一人前の大人の女性になったようで嬉しかった。
あれは雨上がりの日であった。授業を終え、帰りの電車のホームでの出来事である。
乗換線のある駅に着き、降車するとわたしは隣のホームへと急いだ。
私鉄沿線が二本乗り入れているこの駅では、電車間の連絡が悪く、降車してすぐ隣のホームに走らないと、次の電車まで十数分も待たねばならない。それが嫌なので皆、一様にダッシュするのが常であった。
わたしもそれにならい、ホームを大股に急ぎ歩いていた。走らなかったのは、まだ踵の高いパンプスに慣れていなかったからである。
カッカッカッ。ヒールを鳴らして歩いていると、突然足元が滑った。
次の瞬間、ものの見事に大開脚をして座りこんでしまっていた。右足は前へ、左足は後ろへ。
つまりはコマネチ選手が平均台上で開脚するあの姿である。
雑踏の空気が一瞬にして固まったような気がした。誰もわたしに声をかけては来ない
わたしは顔面から火を噴きそうではあったが、何事もなかったような顔をして立ち上がり改札を出た。とてもそのまま隣のホームに行く勇気はなかったのである。
それから30分も駅の周りをグルグルしながら時間をつぶし、ようやく乗るべき電車に乗った。
もうあの時の乗客たちは居ないだろうと思いながらも
『ほらあの子』と後ろ指をさされ笑われているような気がして顔が上げられなかった。
今だに忘れられぬ若き日の思い出である