母の物忘れに 心ゆれる時間
「あれ、さっきも聞いたよ。」
そう思った瞬間、胸の奥が少し苦しくなる。
何度も同じ話を繰り返す母。
昨日のことは忘れてしまうのに、何十年も前の思い出は楽しそうに話してくれる。
「どうして覚えていられないの?」
そんな言葉が喉まで出かかって、飲み込む。
母だって、忘れたくて忘れているわけではない。
私が子どもの頃、
熱を出せば一晩中看病してくれた。
転べば駆け寄って手を差し伸べてくれた。
いつも私のことを一番に考えてくれた人。
今度は私が、母の歩幅に合わせて歩く番なのかもしれない。
もちろん、きれいごとだけではない。
何度も同じことを聞かれれば疲れる日もある。
つい強い口調になってしまい、あとから後悔する夜もある。
それでも、母の笑顔が見られた日は、
「今日はいい一日だった」と思える。
認知症は、記憶を少しずつ奪っていく病気かもしれない。
でも、安心した気持ちや、優しくされた記憶、温かなぬくもりは心に残ると言われている。
だから今日も、
「大丈夫だよ。」
「一緒にいるよ。」
その一言を大切にしたい。
母の物忘れに心が揺れる日々。
それは、親子だからこその時間。
いつか振り返ったとき、
「あの時間も大切な宝物だった」と思えるように、
今日という一日を、母と笑って過ごしていきたい。










