月1回は実家に顔を見せに行っている。

半ば「何か欲しいものはある?」と夫の店の野菜を売りつけに行く感も拭えないが。

車で1時間ほどのところに実家はある。

呼び出されて行けなくもないけど、そうしょっ中行けるほどでもないような微妙な距離感が母との関係性を危うくさせることがある。

 

つい2週間前に行った時に隣町までの買い物に車を出した。

業務用調理器具など新品中古品を取り扱う店舗だ。

母は無類の料理好き。

お目当てのものを問い合わせたが思ったようには手に入らないようなのでそれは断念した。

母と私とは人間的に正反対なところが多い。私は料理下手、服やら器やらモノを選ぶセンスが抜群な母。モノを捨てられない母とそうそうモノを買わない私。

今回もせっかく来たのだからといった風にそこまでして欲しいかなと言うようなものを買ったりする。

中華の蒸し器。

急にこれが欲しいと言い出したのはよく見るテレビ番組でこれを使った料理を見たからだ。

 

早速作ったのだろう、“ご注文の野菜“を台所の床に下ろした私に母が言った。

「蒸し器が燃えちゃうのよ、やっぱり一緒に“下“も買っておけばよかった」

そう、前回の買い物では蒸し器の“上“の部分だけ買って“下“の鍋は買わなかったのだ。

セットで買った方が使いやすいと私は2回ほど繰り返したのだが、家にあるフライパンに乗せるからいいと母は言った。

私はなんとなく不貞腐れたような気持ちになってしまった。

このようなことの顛末から起こるあらゆる母と私の歴史が頭中で駆け巡る。そうしてざわつく気持ちの波の中、いつまでも揺られているよりは素早い問題解決をと判断。

「じゃあ、また行ってみようか。」

特に今日はやることもないし的な余裕のある声で言った私はこんなことを考えていた。

 

今日はタイミングよく兄がいたので、兄と3人で出かけることにした。

二月ほど前に両親と同居する兄が新車を購入した。

ようやく家族構成や家計の縛りから離れられた兄の選んだ車はなんだか他所者風に駐車場にいる。それとは違い今の兄に似合う、格好のいいクルマだ。なんとなくそんな敬う気持ちがあり運転してみたいと思ってはいたが「運転させて」とは言えず、「載ってみたいな」と私は兄に言っていた。

 

買い物を終え、帰り道を半分来たところで兄が車を道路の端に寄せた止まった。

電話でもするのかと思っていると、「せっかくだから、運転しなよ」と言われた。

昭和の男、職人肌の父親を一番嫌悪していた兄が、近年父親に似てきたと母と三人姉妹でよく揶揄したりもするのだが、昔から優しい。

こうゆうところが“兄“が“兄“である所以である。

 

そんなこともありつつ買い物も済み一件落着、気持ちよく実家に着いた。

すると、忘れていた懸念の種が芽を出す。

サイズが合わない。

中華蒸し器の“上”と“下”のサイズが合っていない。買ってきた鍋が小さい。

「行く前に大きさ確認してって言ったよね。」

「お店で、これより大きい方じゃないかって聞いたよね?」

私は悪魔を睨む目になる。

「いいよ、これはこれで鍋として使うから」と母。

気持ちの切り替えが早いなどと褒められない、不注意による無駄遣、家はもので溢れかえっている上にモノが増えることを問題とも思わない。

私の憎むべきコトを平気でやる、母は悪魔だ。

 

 

実家から自宅への道のり。有料道路の15分間はいつも快適流れる。

 

私は母と馬が合わない。

もともと合わない上、そして母は年老いた。

私が大人になって親と子の関係がイーブンになり、母が年老いて、私にハンデキャップが付加されるような。

いささか私はそれに不満を持っている、いや、それに慣れていないのだ。

子育てをする親が思うように、年老いた母がいて、それをどうして良いのかわからないのだ。

 

家に着くと私は堰を切ったように出迎える夫に今日の出来事を話し始めた。

ーー「行く前に大きさ確認しなねって言ったのに、、、次に話す言葉が頭に浮かんだと同時に

ーそうじゃない!と私が私を遮り、私をハッとさせた。

「あ、そうか。」

私がサイズの確認をすればよかったのだ。

鍋の大きさを間違えて買わないよう、蒸し器のサイズを確認するのは私だったのだ。

 

また冷たい言葉を発してしまったかもなぁ

やっちまったぁ

母は表面ではそっけなくしているが、本当はそんなサバサバしている人ではない

ある時から私はその考えを上乗せして接するよう

そう心掛けに加えたはずだった

「またしても、失敗!」

 

でも、きっとこの失敗は感情の蓋の重石を重くしてくれる出来事。

なのだろうけど、こんな私のことだからきっとまた蓋を吹き飛ばす。

ま、そんな母との間のことだからだろうと自分のせいにもしすぎないことにする。

 

母へのリベンジのチャンスは多く持ちたい。

遠くにいてもあなたのことを思っていること

それだけはどうか伝わるように。