
村田喜代子の本はリクエストが多いのか、今までにも何冊か校正で読みました。
本の始めは一寸退屈する時がありますが、読み進むうちに引き込まれて読みます。
九州のどこかの火山の近くにある硫黄谷は、昔心中の名所で、そこの澤田屋旅館は心中に向かう男女で賑わった事があるという変わった旅館、今はすっかり寂れているのですが。
そこに泊まり合わせた、三組の客や、旅館を経営する父娘、かつて心中しそこなって、そこの使用人になった女性、それらの人々が語り手になって話しが進みます。
つぶれそうな旅館の切り盛りをする女主人、身障者の弟の世話をする老婦人など。
多くの人が望んだわけではない境遇に心ならずも身を置いて誠実に努力しています。
彼らはうたた寝の夢の中で、谷に向かう濃霧の中で、ふと心中の幻を見ます。
かりそめの開放感。
自分が望んだ通りの人生を歩く人はほんの僅かでしょう。
多くの人は心ならずも引き受けた人生を生きる。
それでも人は生きなければならない。
読後感、一寸悲しいものがありました。