オニギリ談義が次々と展開されたがやっと幕が引かれた。
「ねえ、晃一さん、また若草山に来たいなあ」
「そうか、そしたら、またな」
(…それが、プロポーズ、 中々言えないもんや…)
恋は恥じらいに邪魔され晃一は勇気のなさを嘆いた。
(…もう、悦ちゃんが好きやのに、素直に言えんかった…)
しかし晃一には訳があるのか焦りがなかった。
恋心に確かな悦びを感じた若草山の晃一だった。
(…まあ、そんなに簡単な、夢物語と違うもんなあ…)
言葉のプロポーズは言えなかった晃一だが、悦子の恋心が
晃一の思いやりに芽生え、言葉以上のプロポーズとなった。
話しが横道に逸れたが本筋に戻し、祖母のキクが自慢した
故郷の名城だった、川島城の物語りを続けたい。
キクは体調を崩し床に伏し、退屈な時を埋める気晴らしに
川島城の由来を書いた、故郷の書籍を読んだのだった。
郷土史を紐解き川島城が、戦国の激動期に翻弄された哀し
い城だったが、孫を前に話したかったのだ。
(…さあ、晃一が、覚えとるじゃろか…)
今がよい機会だと思ったキクは、郷土の歴史を学んだ俄知
識を孫を話し相手に、自分自身の記憶力も確かめたかった。
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