お城の話しを喋り続けキクは咽がカラカラだった。

 

「まあ、ほんな戦がじゃわだ、あの島原の乱ちゅうらしいん

じゃけんな、ほんなんが、あったけんな、もう川島城も使え

んように、壊せと徳川幕府に言われたんじゃわ」

 

 哀しそうなキクの話し口調だった。

 

「もう、しょう事なしにじゃわ、ほんに勿体ないが、川島城

もめがされたんじゃけん、辛い事になったんじゃわだ」

 

「ほれ、今な、ここにじゃお城がない訳が、どうじゃろかい

な晃一も、ように解ったじゃろが、ほれ聞いとらんかったけ

んど、ほう言う事があったんじゃわだ」

 

 水筒を引き寄せキクは乾いた喉を再び潤した。

 

 日本伝統のご馳走にオニギリがあった。

 

 幼い頃は興味を持った物に集中し周囲は見えないのだ。

 

「あれ、聞いとったわバアやん、お城めがされたんじゃろ」
「ほうか、晃一、聞いとったんか」

 

「もう、バアやん今は、お城ないんじゃろ」

「ほうか、聞いとったっんか」

 

 最後の話しだけは晃一の耳に届いた。

 

「ほれ、弁当ないけん、話しを聞とったけんな」
「ほうか、弁当ないけん、話し聞えたか」

 

 お城の話しが晃一の耳に届いたとはキクも予想外だった。

 

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