喋った自身の記憶が悦に入りキクの舌は滑らかだった。
「ほの、蜂須賀家政ちゅうな、ほれは偉い阿波徳島の殿さま
は、ここにあった、お城もじゃわだ、戦国の時代に阿波の領
地を戦いから守るため、この城山を選んだけん」
キクは笑みを見せ自信満々の熱い喋り口調だった。
「ほれから、阿波領内の大事な場所を九つ選び、阿波の徳島
を守る立派な出城を築いたんじゃわだ、ほの大事な九つのお
城を阿波徳島の九城と、蜂須賀家政は名付けたけんな」
「ほれだ、今なバアやんが喋っちょるのが、有名な川島城な
んじゃけんな、ほんなにも大事じゃった、阿波の九城に数え
られた、お城がじゃわだ、川島城なんじゃけん」
キクは喋りに熱中し好夫や晃一が眼中になかった。
「ほんな、大事じゃった、立派な川島城じゃのにな、もうお
城を使えんように、目茶苦茶にめがされたけん、ほれが急に
なんじゃわだ、徳川幕府が1国1城を言い出したけんな」
「もう、阿波の国にはお城がじゃわだ、徳島城だけになった
んじゃけん、ほれがな、徳川幕府にしたらな、まあ面倒い事
が九州じゃったわだ、あったらしいけん」
「ほれが、ある九州の出城にな、徳川幕府に刃向こうた人た
ちが集まった、ほんなお城があったけんな、もう徳川幕府は
1国に1城と決めたけん、川島城も壊されたんじゃけん」
(…ああ、ほうじゃわ、島原の乱じゃったわだ…)
遥か遠い彼方の西の空を眺めながらキクは深呼吸をした。
ー293ー