兄の好夫と晃一は、美味しい巻き鮨に気持ちが奪われキク

の話しは、孫ら兄弟の耳には届かなかった。

 

 キクは孫らの食い気を知りながら1人喋った。

 

「この、お城を作ったんじゃが、ほの10年ほど後にじゃ言

よるけんどな、ほれが川島のお城はな、隣国の長宗我部に攻

められ、ほの戦争に敗け掛けたたんじゃわだ」

 

 食い気が先に立つ孫2人は、キクが語るお城の話しが上の

空だった事は、語るキク自身が百も承知の上だった。

 

 キクは読後の感動を思い出し喋り続けた。

 

「まあ、川島のお城が攻められ、早う敗け掛けたがな、ほれ

まあ強かった織田信長じゃ言う人がな、あの京都の本能寺に

おったんじゃが、ほの家来に裏切られたけん、こっちの川島

城を攻めるんも止めたけん、助かったんじゃわだ」

 

 孫2人はキクの難しい話しよりも弁当に夢中だった。

 

「ほの、殺された織田信長の後を継いだんが、ほれだ草履取

りから天下を取った言うちょるな、あの羽柴秀吉ちゅう人な

んじゃわだ、ほれ有名な偉い人じゃ言よるけん」

 

(…もう、孫らの弁当も、もうちょっとじゃわだ…)

 

 ほの、秀吉さんは、あの長宗我部の兵隊をな、阿波の国か

ら追い出したんじゃわだ、ほの時にな働いた強い侍がおった

んじゃけん、ほの蜂須賀家政ちゅう立派な大将にな、この阿

波の徳島をじゃわ、任せたんじゃわだ」

 

 喋り疲れたのかキクは水筒のお茶を少し飲み喉を潤した。

 

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