晃一が興味津々と弁当の方に瞳を集中させた。

 

「もう、弁当見たら、お腹が急に空いたわだ、なあバアやん

だ、あの朝の巻き鮨が欲しいけん」

 

「ほうか、よっしゃ、晃一よ」
「ほれ、バアやん、巻き鮨の美味しい匂い、しとるわだ」

 

「もう、今朝な晃一だ、腕に寄りを掛け作ったけん」

「ほうじゃわ、バアやん」

 

 好天気にも恵まれキクはご機嫌だった。

 

 弁当を目にした晃一の食欲は人並み外れ旺盛だった。

 

 3人は吉野川の雄大な流れが望める、眺めのよい西の方角

を向き、キクを真中に大きい風呂敷の上に座った。

 

 晃一ら3人が弁当を広げた城山の西端に位置した、吉野川

に突き出た岩の鼻と呼ばれる断崖は、過去に暴れ川と恐れら

れた四国三郎の激流が、周囲の土砂を何億年も掛け徐々に侵

食し下流に押し流し、巨大な緑色岩が現れた。

 

 自然が織り成した難攻不落の要塞だった、川島城は元亀3

年の室町時代の末期頃に、武将の川島兵衛之進が築城した由

来から、お城を川島城と名付け、お城を取り囲む周辺地域が

栄え、城下町の街並みが形成されたのだ。

 

(…この、前にじゃわだ、患ろうた折に退屈凌ぎに、体を横

たえながら読んだ本じゃがな、役に立つし面白っしょかった

けん、お城の事を孫らに聞かせちゃろかいだ…)

 

 キクは町史を読んだ記憶を辿り孫らを相手に話し始めた。

 

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