父は笑みを満面に称え和代を抱寄せ、空虚さを埋める心の
揺れが言葉の響きに現れ、余計に父の生活に流れる隙間風が
哀れを誘い、男の心情の切なさを物語る仕種だった。
「ほれだ、お父はんの布団じゃったら温いんじゃけん、ほん
に温もったけん、ウチ直に眠られるんじゃけん」
「もう、ほんまに和代は、可愛い娘じゃわい」
父は淋しさを紛らわし和代の体を抱き締め暖めた。
和代は女の恥じらいを横に置き、息遣いが伝わる暖かい父
の胸に顔を埋め、安心したのか深い眠りに落ちた。
(…おお、和代も、ええ娘になったわい…)
父は柔らかい和代の体を包み込む手の感触から、女らしさ
を帯びた体付きを娘の肌に感じ、妻には求めない恋しさが込
上げ、和代の冷たい足先を自らの太股に挟み込んだ。
(…まあ、お父はんが、毎晩出掛け家に戻らんと、仰山お酒
呑むん解るけん、お父はん淋しいんじゃわ…)
父の寛げない男心の虚しさを和代は、母トヨの熟女不足と
本能的に感じた和代は、父に甘えたのだ。
(…あの、お父はんお母はん、以前は仲よかったけん…)
日頃から和代の母トヨは、喜怒哀楽の感情を顔に出さない
能面のような表情をし、目鼻立ちの整った美人顔だったが愛
嬌のない仏頂面を夜毎見せ付けられ、父も求めを殺し望みを
避け我慢を続けた反動から生じる、精神的なストレスが身体
を害し、心臓の不整脈症状が頻繁に現れ夜の不眠も続いた。
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