理性や羞恥は薄れ晃一は本能遺伝子にバトンタッチした。

 

「あの、晃一さん、ああ晃一さん」

 

 悦子が苦し紛れの呻き声を出し、晃一の顔を上目遣いに眺

め眉間に皴を寄せ、苦痛に喘ぎ辛そうだった。

 

 初な晃一の恋の絡み劇には程遠い、野獣も目を背けるほど

ムードのない、シャイな男のラブシーンを女王が見たら吹き

出し、お腹を抱え笑い転げるほどのお粗末さだった。

 

(…もう、俺なこんなん、苦手なんや…)

 

 晃一は平常心を忘れ、悦子を手加減なしに抱き締め抱擁力

も何処かに置き、やさしい仕種は微塵もなかった。

 

 悦子の豊かな胸が圧迫され、乳房のほどよい痛みが性感帯

を刺激し快感を覚え、悦子はウットリした気分に浸り、意識

が麻痺し僅かの間だが気を失った。

 

(…あの、女王には、こんな事も教わりたかった…)

 

 性本能にバトンタッチした晃一だが、理性とか羞恥心に邪

魔され、本能と理性が相争う葛藤を繰り広げたが、晃一の本

能が攻め返し悦子の柔軟さに理性は傍観した。

 

「もう、晃一さん、あの晃一さん」

「あのな、悦ちゃん、こんな僕やけど、なあええんか、もう

離さんから、ほんまに離さんからな」

 

 幼い頃は路子との飯事遊びが幼恋を育み、中学時代には可

憐な転校生に思いを寄せ、思春期の切ない恋の甘さ辛さを知

った恋遍歴も、今夜が理想の女性と出逢うピリオドだった。

 

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