美保子はベッドに仰向けに静かに倒れ込んだ。

 

「ねえ、晃一さん、あの蓮華の畑みたいに寝転ぼうな」

「あれか、あの春の蓮華畑な」

 

 春に蓮華畑に寝転んだ事を晃一も思い出した。

 

「ねえ、美保子、あの蓮華畑が忘れられないのよ」

「ほうか、蜜蜂騒動が、あったもんな」

 

 美保子は晃一の手を引っ張り寝転ぶように言った。

 

「ねえ、晃一さん、蜜蜂の羽の音に驚き怖かったのよ」

「あれなあ、ほうか、美保ちゃん」

 

「それがね、晃一さん、今ね美保子の側に蜂が来たのよ」

「もう、美保ちゃん、ここ蜂おらんわだ」

 

「それが、今度は晃一さんが、蜜蜂になるのよ」

「あの、ほんな美保ちゃん」

 

「あのね、晃一さん、動いたらだめだからね」

「もう、美保ちゃん」

 

 急に美保子は仰向けの晃一の上に豊かな体を重ねた。

 

「あれっ、ほんな、美保ちゃん」

 

 思春期を学習した美保子の柔軟な仕種だった。

 

(…もう、ワシ自由が利かん、夢のようじゃわだ…)

 

 夢の世界に誘い込まれた晃一は花園に戸惑う蜜蜂だった。

 

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