晃一が新聞配達を始めた背景の展開に、少しページを割き

過ぎた嫌いもあるが、美保子が母から夜毎聞かされ涙した情

景の概略が、少し字数の多い説明となった。

 

 勇気のなさが招いた晃一の苦い旅費騒動を閉じ、本筋の美

保子と晃一の昼休みの教室に於ける会話シーンに戻したい。

 

 母から話しを聞いた内容を美保子は話し始めた。

 

「あの、美保子ね、お母さんの話しを聞き、あの南部さんに

憧れ、南部さんの背中が気になるのよ」

「ほんな、もう稲垣さん」

 

 淡麗な美保子の落ち着いた喋り方に、晃一は幼馴染みのよ

うな親しみさえ感じさせ、妹のような錯覚をした。

 

「あの、美保子ね、学校から帰るとね、お母さんしかいない

のよ、けどお母さんが帰るの遅い日があるのよ、独りぼっち

の家だと淋しいものよ、もう涙が出る時があるからね」

 

 転校し1年過ぎたが美保子には友達がいなかった。

 

「あのね、南部さんからね、色んな話し聞きたいのよ、ねえ

南部さんお願いね、お母さんも悦ぶと思うのよ」

 

 哀しみに沈む美保子が晃一に懇願した。

 

(…ほんま、稲垣さん、淋しいんじゃわだ…)

 

 美保子の胸の内を聞かされ、転校の影にある他人には解ら

ぬ心情を晃一は知り、美保子の助けになろうと思った。

 

 胸が痛む晃一は可憐な美保子の切なさが身に沁みたのだ。

 

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