担任の村尾先生は父を納得させようと必死に応じた。
「あの、費用の事があるけんどな、ほれ学校の方にも色んな
制度がありあけん、お父さん心配いらんけん」
言葉尻を捉え揚げ足を取る父の屁理屈が始まった。
「ほう、もう旅費はいらん、恥さらしな事が言えまんな」
「ほんな、お父さん、制度の活用は恥と違うけん」
玄関からの聞き慣れた若い村尾先生の声が、理屈屋の父を
相手に、修学旅行に晃一を参加させようと考え教育現場の多
様性を通し訴える、教育者の鏡と言える言動だった。
「ほうかいな、もうほう言うふうに先生が、おっしゃるんな
らじゃわ、こっちゃらは反論の余地がないけんな」
「もう、失礼な言葉遣い、ごめんなさい」
「ほんな、教育の一環じゃ言われたもんならじゃわだ、もう
恥さらしじゃが、行かさん訳にはいかんわだ」
「もう、お父さん、言葉が足らんのおこらいなはれ」
先生の正論に言葉を失った父はステ台詞を吐き黙った。
教育の一環と父を説き伏せる村尾先生の話しに、反論の矛
先を遮られ費用も学校負担と聞き、はらわたが煮え繰り返る
ほどの屈辱を舐め、父の面目は丸潰れだった。
(…もう、先生がいんだ後が怖いわだ、父やんからどんな目
に遭うか生きた心地せんわだ、けんどワシが撒いた種じゃけ
んな、誰も悪うない悪いのはワシじゃけんな…)
動悸の荒々しい晃一は父が怒る恐怖の現実に怯えたのだ。
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