ブルーノート東京で演奏するピンク・マティーニ。

                中央のヴォーカルはチャイナ・フォーブス。

                                                                     撮影 : 佐藤 拓央 Photo by Takuo Sato

 

 

   ブルーノート東京で、由紀さおりとのコラボで知られるジャズ楽団ピンク・マティーニを聴いた。たとえばニューヨークならカーネギー・ホールを満杯にできるこの楽団の演奏をキャパ400人くらいのライヴハウスで楽しめるなんて、なんと贅沢な!(10月28日、所見)。

 

 コンガ、ボンゴなどラテン音楽の打楽器が目いっぱい活躍する。管楽器はトランペット、トロンボーン一本ずつだが、要所々々で有効的にフィーチュアされる。常に全体を引っぱっていくのは、リーダーでピアノのトーマス・ローダーデールである。そのタッチの力強く華麗なこと。

 

 そして女性ヴォーカル、チャイナ・フォーブスの時にはあでやか、時には軽やかな歌いぶりが、ひときわ耳をそばだてずにおかない。全プログラムに文字通り〝花〟を添えるという要の役割を見事果たしていた。

 

 プログラムには、冒頭の「ボレロ」からアンコールの「ブラジル」まで席を立って踊り出したくなる曲がずらりと並ぶ。実際、「ブラジル」では我慢し切れなくなったお客たちのパレードが客席を練り歩いたくらいだ。

 

 もちろん、この楽団お得意の日本の楽曲が目玉中の目玉である。フォーブスが歌う「菊千代と申します」(オリジナルは、1963年、和田弘とマヒナスターズ。作詞山上路夫、作曲鈴木庸一)には思わず頬がほころぶ。和洋折衷の昭和歌謡の特質をおのずとホーフツさせるからだ。

 

 ティモシー・ニシモトの「ズンドコ節」も会場全体を盛り上げた。ズンドコという言葉からしてユーモラス、かつリズミカルでローダーデールの好みのように思える。なぜ彼がこの曲をピックアップしたのか尋ねてみたい。と同時に、日本以外の国々での「菊千代~」「ズンドコ節」の受け具合も知りたいところだ。

 

 日本では忘れられてしまっているこれらの曲が、ピンク・マティーニによって世界各地で演奏されていること自体、もっと話のタネになっていいのではないか。

 

 私が聴きに出掛けた日には雪村いづみが特別出演した。歌ったのは「テネシー・ワルツ」1曲だけだったが、その歌いぶりの堂に入っていたこと。アメリカで活動したこともあるキャリアが生きたのだろう、この楽団との息の合い方には格別のものがあった(なお前日の27日は黛ジュン、翌日の29日は由紀さおりが特別ゲストだったという)。

 

 興味深かったのは客席に外国人が目立ったことだ。店のしかるべき人に確かめたところ、これほど外人客の多いことはきわめてめずらしいという。この客席の有様からもピンク・マティーニの世界的人気が裏書きされるというものだ。

 

  (オリジナル コンフィデンス  2018/11/26号 コラムBIRD’S EYEより転載)

 

ピアノに向かうトーマス・ローダーデール。

                                            撮影 : 佐藤 拓央 Photo by Takuo Sato