先日、S駅の本屋に立ち寄ると、地味ながらスペースをとってある作家の特集コーナーがありました。初めて聞く名前の作家ですが、ミステリー作家ということでちょっと気になりました。思わず買おうかなと思い、手に取ったのですが、同じ時期に読んでいる本があり、順番を待っている本もあったことからそのときには買い求めませんでした。
 で、勤務先の生協の本コーナーを歩いていると、その作家の本が一冊ありましたので、とりあえず買っておきました。
 帰宅後、途中だった本をちょっと脇に置いて、新しく買い求めた本をめくると・・・。

 石持浅海『水の迷宮』(光文社文庫、2007年5月)

 名前からしておわかりのように、海に関係したミステリーを書いている作家のようです(ちなみに、いしもちという名前は魚の名前だと思われます。小生の田舎の海で釣れた魚の一つにいしもちという名の魚がいましたから)。

 ある水族館で起こった展示生物への攻撃を予告するケータイメール。それが連続し、やがて殺人事件に発展。水族館を守ろうとする職員と犯人捜し。犯人が限定される、ある種の密室状況の中で展開される謎解き。その裏に流れる壮大な計画。
 この本の面白さは、何といっても水族館が舞台になっていることでしょう。
 ミステリーの舞台になりそうもない水族館で事件が起こるということで、水族館の仕組みばなりではなく、魚の名前や飼育法などがふんだんに散りばめられています。それでいて決して難しく描かれているわけではなく、それらがストーリーの「脇役」をこなしています。

 とはいえ、「解説」で辻真先氏が述べているように、「甘い」「調子よすぎる」と感じる設定や場面もあり、『そうかなぁ』と思いながら読んだ部分もありましたが(ミステリーなのでそれがどの場面かはいえませんが)、これまた辻氏が述べている、次のような感想に近い感想を持ったことも事実です。

 もしかしたら『水の迷宮』は、ミステリでありながらファンタジーの一面を持つのかもしれない。確かに作品世界は平成日本をバックにしているけれど、作品は意図して作品の構造そのものに、魔法をかけたのではあるまいか。魔法の粉を頭からかぶったぼくは、よくできている甘いミステリを、その甘さまでひっくるめて全肯定してしまったのか。あえていわせてもらうならば、ぼくはそれでいい。[p.396]

 ミステリーの面白さは謎解きの面白さとともにシチュエーションの面白さに負うところ大だと思っていますが、その点では、本書は水の迷宮=水族館という舞台におけるシチュエーションの面白さが読み手を引きつける作品であるように思います。

 というわけで、読後、石持氏の既刊本3冊を注文。(笑)