
昨日の日経朝刊に「三菱東京UFJ銀、一部業務停止命令へ 不正関与で金融庁」という大きな記事が掲載されました。
繰り返される企業の失態に、我々は感覚が麻痺してしまい、挙げ句の果てには「どこでもやってることさ」と、とくに驚きもせず、あきらめてしまうことがあります。
そんな記事が掲載された日、幸田真音『凛冽の宙(りんれつのそら)』を読み終えました。
この本では、不良債権処理に苦しむバブル崩壊後の企業を逆手にとって利益を生み出そうとする外資系証券会社の日本法人社長坂木と投資顧問会社古樫という二人の人物を通して、日本の金融システム全体の問題点を指摘しています。(本書の最初の出版は2002年で、小生が読んだのは講談社文庫版です。)
つい昨年話題になったIT界の寵児や、まさに投資顧問会社社長として名をはせながら逮捕された某氏を彷彿とさせる古樫。
「世の中というものは、賢い奴のためにある。そしてそうした人間を選んで、金もまた、向こうから近づいてくるものだ。」(p.112)
古樫はこのような考え方をする人物として登場しています。「世の中というものは、賢い奴のためにある。」というのは、『ドラゴン桜』で桜木が生徒たちに語った「世の中、頭のいい奴の都合のいいように作っている。」と平仄が合っているように感じます。
物語は、古樫の逮捕、金融庁による坂木の証券会社の捜査など、まさに今現在、現実に起こっていることが描かれています。
この本の中で不良債権処理のケースが二箇所で紹介されています。最初は坂木の部下、島崎が水沢に解説する邦銀の不良債権処理(pp.222~229)。次が生保の不良債権処理(pp.276~290)。この二つのケースは、非常に明快に書かれていて、『なるほど』と唸ってしまいます。幸田は、後者のケースで、水沢の質問に対して島崎に次のように語らせます(p.276)。
水沢「だけどね、島崎さん。問題はその方法論でしょう」
島崎「お上は、早く不良債権を減らせとは言うけれど、その方法については何も言わないのさ」
まさに、ここに不良債権処理に関する制度上の欠陥があります。
そもそも不良債権を処理すると貸借対照表から不良債権が外れます。表面的には、B/Sから不良債権を外すことが重要なのであって、その方法が適切かどうかはお上(金融庁)は問わないというわけです。しかし、あまりあくどいことをやり、その結果社会的な問題として騒がれ出すと、お上はスケープゴートとしてどこか一つに狙いを定めて摘発することになります。(三菱東京UFJ銀もスケープゴート?)
実直な坂木は、結局、自らも取り調べを受ける身になりながら、親会社の策略に巻き込まれながらも、日本の金融システムの不備につけ込む親会社からの圧力と対峙するかどうか悩みます。
そんな中、かつての上司が住むノルウェイを訪れて坂木が見たものはオーロラ。
いったい、いまのはなんだったのだろう。
わずか十分に満たないような、そのくせ永遠にも等しいものほどの、北極圏の空の奇跡は、かくも圧倒的に自分をうちのめし、不思議な満足感を残して、消え去った。
地球という、限りない生命体の、あれは健康な息遣いだ。
優雅に、だが、したたかに、凛冽の宙に舞う確かな存在の証なのだ。
坂木は、はっとわれに返った。
突然、心を照らすものを感じたからだ。(p.504)
ここにタイトルが使われています。オーロラを見たことによって、それまで逡巡していた坂木の気持ちが決まり、読んでいる方も思わず「がんばれ!」と叫びたくなる場面です。
ところで、幸田真音(こうだ・まいん)の本は、これまで『日本国債』や『傷-邦銀崩壊』などを読んでいますが、ハラハラドキドキのストーリーで楽しませてくれますし、展開金融界の最先端を知るには恰好な読み物です。とくに謎解きの要素が満載の『傷-邦銀崩壊』は、おすすめの一冊です。
(洞察は及びもしませんが、同僚のI先生のブログをまねてみました。笑)