一つ前の投稿を訂正します。脳の各部位の形成とそこにある神経ネットワークの発達は、胎児期に限るものではなく、産まれてからも続いて、思春期から20歳を超える頃まで続くものらしいです。そんなことを絡めて訊いていたら、統合失調症や双極症までもが脳の形成タイミングのエラーで説明されそうになり、それに対して反論しました。
なぜ絶滅しないのか、その答えがまさに「高齢の父親の精子から、常に新しい突然変異(de novo変異)として毎世代一定数が補給され続けているから」、、、これは衝撃的でした。統合失調症が1%いるのは進化上のメリットがあり、いわば人類が育んできたとも思っていました(群れ社会の外に起こっている微妙な兆候への感受性が生き残りに役立った、など)。高名な精神科医の中井久夫氏がそんなことを言っていたと記憶しています。
まさに中井久夫先生(日本を代表する高名な精神科医)が提示されたような、「統合失調症(あるいはその傾向を持つ人)には人類の生き残りや進化における重要な役割(メリット)があったのではないか」という仮説は、精神医学や進化生物学の世界で非常に深く、現在も真剣に議論され続けているテーマです。
ご指摘の通り、「高齢の父親からの突然変異(de novo変異)による補給」というメカニズム(数理的な維持)がある一方で、「なぜ人類は、統合失調症になり得るような『危うく、複雑で、高機能な脳』を進化の過程で選び取ったのか」という本質的な問いがそこには残されているからです。
この「進化上のメリット」という視点について、中井先生の洞察や現代の進化精神医学の知見を交えて3つのポイントで解説します。
1. 中井久夫氏の洞察:群れの「見張り番」としての感受性
中井久夫先生は、統合失調症の急性期に見られる「世界が激変したように感じる」「あらゆる微細な変化に意味を感じ取ってしまう」という過敏な状態(プレレマ・微兆期)について、人類がかつてサバンナなどで暮らしていた原始的な時代に当てはめて考察されました。
- かすかな兆候を察知する能力:
普通の人が気づかないような草むらのわずかな揺れ、風の匂いの変化、遠くの気配(捕食者や敵の接近)をいち早く察知し、群れ全体に危険を知らせる「有能な見張り番(斥候・スカウト)」の役割を、こうした高い感受性を持つ人々が担っていたのではないかという説です。 - 集団としての生存戦略:
全員が「鈍感で協調性の高い普通の人」だけだと、集団ごと一網打尽にされるリスク!があります。群れの中に一定数、「周囲の環境の微細な変化をキャッチできる異質なアンテナ」を持った個体を含めておくことが、集団全体の生き残りに有利(メリット)に働いたという考え方です。
2. 「言語の獲得」と「創造性」の代償(トレードオフ)
現代の進化精神医学(クロー(Timothy Crow)の提唱した説などが有名です)でも、統合失調症は「人類が言葉(言語)を獲得し、高い知性を持つようになったことの裏返しの代償(コスト)」であると考えられています。
- 高すぎる性能ゆえのバグ:
人類は、言葉を操り、他者の心を推し量り、過去や未来を抽象的に考えるために、脳の神経ネットワークを極限まで複雑に発達させました。この「高性能なシステム」は、ほんの少しの歯車の狂い(遺伝子変異や環境ストレス)によって、存在しない声が聞こえる(幻聴)、「他人が自分を狙っている」と思い込む(被害妄想)といったエラー(統合失調症の症状)を起こしやすくなります。 - 創造性とのリンク:
統合失調症の遺伝的傾向(素因)を少しだけ持っている人(当事者の血縁者など)は、時に並外れた芸術的才能、独創的なアイデア、常識に囚われない創造性を発揮することが統計的にも知られています。
3. 「突然変異による補給」と「進化上のメリット」の融合
実は、あなたが感じられた「 de novo変異による補給」という衝撃的な事実と、「人類が育んできたメリット」という説は、矛盾せず両立します。
- 人類は進化の過程で、高度な知性や芸術性、危機察知能力を持つために、「あえて脳のネットワークをギリギリまで複雑にする(=バグが起きやすい設計図にする)」という選択をしました。
- その結果、父親が高齢になり精子のコピーミス(de novo変異)が少し入るだけで、その「複雑なネットワークのバランス」が簡単に崩れて統合失調症を発症するようになりました。
つまり、統合失調症という病気そのものは当事者にとって苦痛を伴うものですが、その背景にある「脳の複雑さや、環境に対する高い感受性」という人類全体のポテンシャル(可能性)を維持するために、毎世代一定の確率でエラー(発症)が起きてしまう仕組みになっている、と言えます。
まとめ
中井久夫先生の「微妙な兆候への感受性が生き残りに役立った」というお話は、まさに単なる「病気の排除」ではなく、「人類の多様性と生存戦略」という大きな視点を与えてくれる素晴らしい洞察です。遺伝学的なメカニズム(数字の裏付け)と、精神医学的な意味(価値の裏付け)が重なり合うことで、この病気が人類の歴史から消えない本当の理由が見えてきます。
この「創造性と精神疾患の遺伝的なつながり」や、中井先生が好まれた「治療における安心感(環境)の重要性」など、さらに深く考えてみたいテーマはありますか?
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