パン屋さんを繁盛させる上で大事なものは三つあると言われてきました。

それは「国産小麦粉使用」、「石釜用」、そして「天然酵母使用」です。

“国産小麦粉”は東日本大震災の津波による原発事故のお陰で、

今はなりを潜めております。“石釜使用”はオーブンの炉床がスレート敷きである、

と言うことだけで「石釜」をことさら大きく標榜するパン屋さんも有るように聞きます。

ここで問題なのは「天然酵母」です。イーストはほぼ工業的に生産され下ります。簡単にご説明するのなら、砂糖を搾り取るときにできる廃糖に酵母菌を植え付け、それを集めてプレスしたものとお考えください。ここまでは工業的という点を考えてみても自然発生する酵母菌を集める、と言うだけの作業ですから良いのでしょう。

でも拙いのは、、、「冷凍体制に優れたイースト」または

「機械生産ラインに優れたイースト」が存在するのです。〇〇に優れたイーストというのは、必ずそれように作った添加物を含有してます。

また一括表示の問題になりますが、お国が「いちいち言わなくて(書かなくて)良い」と言ってくれています。ですから大手メーカーのパンの裏面表示に“このパンは〇〇に優れたイーストを使用しております。”などと書いてありません。

さて次の問題点は「天然酵母使用」と、うたっているパン屋さんがすごーく

多くなってきました。皆様のお近くにも天然酵母使用と言っているパン屋さんが

ありますでしょう。こんどそのパン屋さんに行ったら、

「お宅の“天然酵母”は、何日間かけて培養なさっているかねぇ?」とお聞きになってみてください。(もし、その勇気があれば。)

たいていのパン屋さんは、1)嫌な顔をする、2)インスタントの袋入りの

〇〇天然酵母と書かれたものを示す3)あなたのことを同業者ではないかと

疑い極端に素知らぬ顔をする、、、のいずれかと思います。1)もしくは3)の場合、「東京の リスドォル・ミツの廣瀬~ そう聞け、と教えてくれた」とお答えいただいても構いません。

つまり“事ほど左様に”街のパン屋さんでは天然酵母、そして自然酵母の区別もつかなく、ただうなされた様に「天然酵母使用」と言っているに過ぎません。

ここで今は無き リスドォル・ミツ で自家培養している“ビール酵母”の作り方を若干ご説明いたしましょう。まずデッセム(ベルギー北部のフラミッシュの方々の言葉で「自然酵母」という意味です。)を作ります。デッセムの作り方は特許にもなっているので詳しくは申し上げられませんが、無添加、無濾過、非加熱のビールを使います。

そして一日目がライ麦100、全粒粉100、小麦粉300そして水(天然水)350です。そして温度は20℃で二時間、あとの22時間は8℃で保冷します。これらを最低四日間は繰り返しやっとビール酵母が出来上がります。(つまりデッセム製造工程も入れると五日間以上掛かっている計算です。)

ここまで書けばお気づきでしょう。そうです。たいていの街のパン屋さんはインスタントの、どんな材料で作っているか解らない「天然酵母」をお使いです。

前の日にぬるま湯を入れてそのまま朝になれば使用できる、という極めて簡便な

方法です。まだ12時間以上掛けていれば良い方です。

今、さらに便利なものが開発されております。それは「醗酵風味調味料」です。

*オマケ:

いま、ご家庭で天然酵母(自然酵母)を作っている方が大勢いらっしゃいます。

これらの工程はかなり徹底した安全管理の下にやらなければなりませんので、

お友達に差し上げたりは絶対にしないでください。

特に土壌菌には気をつけてください。土の中に含まれている菌です。

(納豆菌も土壌菌の一種です。ですから間違っても自然酵母培養時は

納豆を口にしないでください。)

昭和16~18年、岩手県盛岡市の産婦人科がイッパイになったそうです。

その頃(食糧難の時)流行した家庭でのパン作りで、「麦角菌」が蔓延し、

それを食べたお母さん達が皆さん流産したそうです。