アルゴウオッチ 「米朝首脳会談」で円売り トランプ氏監視型の円買いが後退

2018/03/09 12:10  日経速報ニュース    1210文字  
 外国為替市場でトランプ米大統領の言動に対する反応度合いが一段と高まってきた。通商政策や安全保障を巡るトランプ氏の発言は米国内にとどまらず、アジアの地政学リスクや欧米のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)にも影響を及ぼす。ヘッジファンドなどの投機筋が使うコンピューター・プログラム「アルゴリズム」のセッティングでも今のところ最優先の事項で、足元の円相場を揺さぶっている。

 9日の東京市場で円相場は続落し、10時すぎに1ドル=106円94銭近辺と前日17時時点よりも1円円安・ドル高水準を付けた。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長はトランプ氏に早期の会談を要請し、トランプ氏は5月までに会談すると応じたと伝わった。アルゴリズム投資家の当初の反応は薄かったが、主要な英字メディアが「米朝会談で北朝鮮リスクが後退」などと報じ始めると、日本や韓国の株高とそれにつられた円売り・ドル買いが、するすると進み始めた。

 「米大統領監視型」のカバー範囲は広いが、振れ幅の大きいトランプ氏のコメントを意識し「『貿易戦争』や『報復関税』といったやや過激な単語に反応しやすくしている」(欧州系ファンドの通貨担当マネジャー)という。市場では株の売りやリスクオフ(回避)の円買いといった取引であらわれる。3月初旬にかけては円の買い持ち高が積み上がり、反動のエネルギーをため込んできた。

 トランプ大統領が前日8日、鉄鋼やアルミニウムの輸入制限からカナダやメキシコを外し、日欧とは交渉の余地を残すなど柔軟な姿勢を見せたこともあり、アルゴ系投資家は後退を迫られていた。そこに米朝首脳会談にかかわるニュースが飛び込んできた。市場では「アルゴを得意とする商品投資顧問(CTA)などは円買い・ドル売りの手じまいをスタートさせている」(野村証券の高田将成クオンツ・ストラテジスト)との声が多い。

 ファンド勢の円買い・ドル売り戦略は「日銀が遠からず金融緩和からの出口に向かう」との前提で作っているケースが多い。日銀の黒田東彦総裁が2日、再任に向けた所信聴取で述べた「出口戦略を19年度ごろ検討するのは間違いない」との発言後にも、リスクオフ戦略をとるコンピューターの円買いが含まれていた。

 日銀は9日午前に開いた金融政策決定会合で、現行の金融緩和策の維持を決めた。結果が発表されたのは11時46分。今のところ円相場に目立った反応はない。市場参加者の関心は15時半から始まる黒田総裁の記者会見に移った。ただ、大規模緩和からの出口戦略を巡る2日の発言をきっかけに円高が進んだ経緯があり、黒田氏は今回の発言内容には万全の注意を払って記者会見に臨みそうだ。円の買い手が弱ってきた点も考慮すれば、日銀イベントを挟んでの円高進行の可能性は薄れた。トランプ氏の言動次第でさらに円安・ドル高方向に振れてもおかしくない。〔日経QUICKニュース(NQN)