【日本株週間展望】選挙前相場続きじり高に、株高アノマリーと円安

  11月22日(ブルームバーグ):11月4週(26-30日)の日本株は、衆院総選挙を前にした経済政策面のリップサービスを受け、選挙期間中の株高アノマリー(投資理論に基づかない規則的事象)を見込む買いでじり高となりそうだ。為替の円安基調も鮮明で、国内景気や企業業績の底打ち期待につながりやすい。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券投資情報部長の藤戸則弘氏は、「選挙期間中は政治家からの甘い言葉が次々出て、投機筋も手掛けやすい」と指摘。先物の売買状況や過去との残高比較から、海外CTA(商品投資顧問)とみられる買いポジションに限界感も出てきたが、「円売り・株買いの動きはまだ続いている。『選挙プレー』と割り切って、日経平均株価で9500円程度までののりしろはある」と言う。
第3週の日経平均 は週間で3.8%高の9366円と続伸し、6月を底値とした戻り相場の高値を更新。14日の党首討論で衆院解散の流れが決まって以降、円安の流れが続き、同週の東証1部33業種の上昇率上位には輸送用機器や精密機器、機械など輸出関連が並んだ。政党支持率で優位に立ち、日本銀行に強力な金融緩和を求める自民党政権の誕生期待に加え、低調な日本、堅調な米国の経済統計格差も影響、1ドル=82円台半ばと4月以来の円安水準となっている。
米商品先物取引委員会(CFTC)の公表データによると、国際通貨市場(IMM)で円は10月下旬に売り越しに転じた後、今月6日には売り越しが4万104枚 と半年ぶりの高水準に膨らんだ。13日時点では3万447枚に縮小したが、その後も円安が進んでおり、再度円売りポジションが膨らんでいる可能性がある。過去1年の最大売り越し規模は、日本銀行の2月の追加金融緩和を受けた3月27日の6万7622枚、当時は1ドル=84円まで円安が進んだ。
自民党「次元の違うものを実行」
自民党は21日、来月16日投開票の衆院選に向けた政権公約を発表し、デフレ脱却に向け2%の物価上昇率を目標に政策協定を政府・日銀が結ぶことや、日銀法改正に言及。安倍晋三総裁は会見で、脱デフレや円高是正へかつての政権の政策とは「次元の違うものを実行していく」と述べた。大規模災害に備えた公共事業を行う「国土強靭化」方針も盛り込むなど、財政出動策も打ち出す。
岡田克也副総理は20日の会見で、「中央銀行の独立性を真っ向から否定しかねないような発言は、極めて問題がある」とし、中塚一宏金融相も「政府が目標を決めるとか、国債を買わせるといったこと自体に大きな懸念を持っており、一国のリーダーとしてはふさわしくない」と発言。日銀への圧力攻勢を続ける安倍総裁のパフォーマンスに、政府・与党内から批判の声が広がっている。
市場でも、金輸出再禁止を経た円安誘導、長期国債の日銀引き受けなど「1930年代の財政・金融政策をほうふつさせる」と、バークレイズ証券の森田京平チーフエコノミストは指摘。その後の2・26事件は拡張政策を緊縮に変える政治的難しさを示し、「この点も類似してしまえば禍根を残す」と慎重な議論を求める声もあるが、安倍プラン全てとはいかずとも、日銀の転換を為替、株式が読んでいるのは事実だ。
過去7回の解散・総選挙、6回で上昇
みずほ証券リサーチ&コンサルティングの調べでは平成以降、民主党への政権交代が成った前回2009年7月までに衆院解散・総選挙は7回あり、解散決定から投票日の前営業日までの日経平均パフォーマンスは、03年10月を除く6回のケースでプラスだった。特に、小泉政権による05年8月の郵政解散時はプラス7.7%、麻生政権による09年7月はプラス9.1%と、第1党の獲得議席が6割を超すなど政治が大きく動いたときの上昇率が大きい。
一方、投票日直後、その20日後に騰落率がプラスだったのは05年のみ。当時は、景気の踊り場脱却期待に小泉政権による構造改革路線が加速するとの期待が加わり、歴史的な日本株買いを入れた海外投資家の05年年間の買越額は史上初の10兆円を超えた。
現在の景気情勢はITバブル崩壊後の金融緩和、BRICsなど新興国の経済成長で世界的な拡大局面にあった当時と異なり、リーマン・ショックを引きずる欧米では肥大化した財政問題も抱え、中国の成長も減速、投資家らは積極的なリスク資産投資のシナリオを立てにくい状況にある。少子高齢化、長期デフレで成長期待の乏しい日本のプレゼンスはとりわけ下がっており、海外勢の日本株に対する姿勢は08年以降、慢性的にアンダーウエートだ。
海外長期資金はなお慎重
バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチの11月の世界ファンドマネジャー調査によると、日本株の配分状況はマイナス34%(オーバーウエートからアンダーウエートを引いた差数)、今後1年間にオーバーウエートとしたい比率もマイナス39%(同)となっている。
日中関係悪化の影響もあり、7-9月期の実質国内総生産(GDP)が前期比年率3.5%減とマイナス成長、10月の貿易収支は4カ月連続の赤字となるなど足元の国内景気は厳しい。政策に関しても期待の域を出ておらず、三菱Uモルガン証の藤戸氏は現状の海外投資家の買いが短期資金中心のほか、ここから上の株価水準では金融機関など国内勢の売りも出やすく、「上昇相場はどんなに引っ張っても12月2週の先物SQ(特別清算値)算出まで」と見る。
ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントの会長、ジム・オニール氏は「円の動きが最も興味が湧くマクロ経済のテーマ」とした上で、間もなくの総選挙でインフレターゲットに前向きな安倍総裁率いる「自民党の政権復帰が行われそう」と予想。同氏は、日本の経常収支赤字転落や厳しい経済、公的債務状況を背景に数年前から円に対し否定的な見方をしてきたが、「これまで私の予想は外れていた。しかし、それが反転する時期が間違いなくきている」と言う。円売り・日本株買いの余地を探ろうと、海外勢も選挙戦の行方を見守っている。
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