それでも権力にしがみつくカダフィ大佐に潜在するのは「殉教の美学」?
  トリポリ政権は形骸化、実態は全盛時代の二割。軍幹部合計120名が亡命

 すでにカダフィ政権から閣僚五名が去り、ベンガジの反政府勢力に仲間入り。
 リビア陸軍の大将五名をふくむ幹部120名がすでに逃亡し、多くがベンガジを拠点の反政府武装勢力に寝返った。
それでも過去60日間、カダフィは傭兵を各地に展開して反政府ゲリラとの戦闘をしぶとく持続させてきた。

 米国がようやく反政府ゲリラの承認にむかって舵を切り替え、フランスなどNATOの列に加わったが、カダフィ政権幹部の亡命地点となっているローマではイタリア政府がベンガジの暫定政権へ巨額の援助を表明した(5月31日)。

 リビア石油利権の多くはイタリア、ついで中国である。
 ながくカダフィの朋友と考えられてきたロシアもついにカダフィから離れ、いま世界で唯一カダフィを承認している独裁国家は中国だけになった。

 AU(アフリカ連合)を代表して、ズマ南ア大統領は30日にふたたびトリポリに入った。四月の訪問以来、調停役は二回目。

 しかしズマ大統領とカダフィとの協議は六時間に及んだが、「即時停戦」「ベンガジ反政府組織との話し合い」をカダフィがとりつく島もなく拒否し、さらにカダフィの海外亡命受け入れ斡旋という妥協案も蹴られた。
ズマは何の成果も得られずにトリポリをあとにした。

 カダフィ体制をささえた陸軍のエリートがごっそりと反カダフィ側に寝返り、ローマで記者会見に臨んだ亡命大将は「かつてのリビア陸軍の二割しか機能していない」と現状を分析した。

一度に五名の陸軍大将が亡命したという現実は、かの軍隊は機能不全に陥落したという客観的事実を露呈しているのではないのか。
 
それでもなお、権力にしがみつくカダフィ大佐の脳裏を去来する美意識とは「殉教の美学」なのか?
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出典・転載、「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 から