手嶋 龍一

オハイオを制するものは大統領選を制する。トランプリードからようやくヒラリーが抜いた程度。大接戦

トランプは大統領になったら、相手候補を権力で捕まえると言ったに等しい。アメリカの恥。

トランプ降ろしは可能だが、討論会を見る限り、まったくその気はない

 

佐々木融JPモルガン・チェース銀行 市場調査本部長  10月8日、JPモルガン・チェース銀行の佐々木融・市場調査本部長は、米国で投資家の本音に触れると、トランプ大統領誕生の可能性は巷間言われているよりも高く感じると指摘。提供写真(2016年 ロイター)

そこで筆者が「あなたにとって有利になる候補はどちらか」と聞くと、彼はためらいもなく、「トランプ候補だ。私の払う税金を減らしてくれると言っているのだから」と頭を抱えながら答えた。

また、あるヘッジファンドのパートナーは、「今年のヘッジファンド業界は成績が芳しくない。正直なところマーケットが大きく動いてくれた方が良いので、そのことだけを考えると、トランプ候補が大統領になった方が良いと言うこともできる」と話していた。

実際、テレビ討論会で、トランプ候補が実業家の顔を見せて、これまでの政治を批判するときなどは、「何かを変えてくれそう」との期待を抱かせないわけでもない。逆にクリントン候補がいわゆる正統派政治家の顔を見せて、表面的なプロパガンダを主張していると、「何も変わらないだろう」と感じさせられる。

「内心、最終的にはクリントン候補が順当に当選して欲しいが、自分はトランプ候補に投票しておきたい」と思ってしまう米国人の気持ちは理解できないわけでもないのだ。だが、もしも多くの米国人がそのような気持ちでいるとすれば、ブレグジット(英国の欧州連合離脱)と同じ現象が起こる可能性は排除できないことを意味する。

7日に発表された9月の米雇用統計はそれほど中身が弱いわけではなかったが、ドル円は下落した。雇用統計発表後に会合を持った投資家、当社ニューヨーク本店のトレーダーは一様に「週末(日本時間10日月曜日朝)の第2回テレビ討論会を前にした、ポジションの手じまいだろう」と話していた。今後1カ月間は、米大統領選の行方に一喜一憂する(もはや、どちらが喜でどちらが憂なのかは分からない)相場展開が続きそうだ。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。