手嶋 龍一
オハイオを制するものは大統領選を制する。トランプリードからようやくヒラリーが抜いた程度。大接戦
トランプは大統領になったら、相手候補を権力で捕まえると言ったに等しい。アメリカの恥。
トランプ降ろしは可能だが、討論会を見る限り、まったくその気はない
そこで筆者が「あなたにとって有利になる候補はどちらか」と聞くと、彼はためらいもなく、「トランプ候補だ。私の払う税金を減らしてくれると言っているのだから」と頭を抱えながら答えた。
また、あるヘッジファンドのパートナーは、「今年のヘッジファンド業界は成績が芳しくない。正直なところマーケットが大きく動いてくれた方が良いので、そのことだけを考えると、トランプ候補が大統領になった方が良いと言うこともできる」と話していた。
実際、テレビ討論会で、トランプ候補が実業家の顔を見せて、これまでの政治を批判するときなどは、「何かを変えてくれそう」との期待を抱かせないわけでもない。逆にクリントン候補がいわゆる正統派政治家の顔を見せて、表面的なプロパガンダを主張していると、「何も変わらないだろう」と感じさせられる。
「内心、最終的にはクリントン候補が順当に当選して欲しいが、自分はトランプ候補に投票しておきたい」と思ってしまう米国人の気持ちは理解できないわけでもないのだ。だが、もしも多くの米国人がそのような気持ちでいるとすれば、ブレグジット(英国の欧州連合離脱)と同じ現象が起こる可能性は排除できないことを意味する。
7日に発表された9月の米雇用統計はそれほど中身が弱いわけではなかったが、ドル円は下落した。雇用統計発表後に会合を持った投資家、当社ニューヨーク本店のトレーダーは一様に「週末(日本時間10日月曜日朝)の第2回テレビ討論会を前にした、ポジションの手じまいだろう」と話していた。今後1カ月間は、米大統領選の行方に一喜一憂する(もはや、どちらが喜でどちらが憂なのかは分からない)相場展開が続きそうだ。
*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。