亡くなったイヴィツァ・オシムさんに「あなたにとってサッカーとは」と、我ながらありきたりの質問をしたことがあります。因みに他の人には、こんな質問を投げかけたことはありません。当然返って来る答えも想定済みでした。
「人生そのものだよ」
 人生も長くやっていると、なかなか想定外の出来事が起こるものですが、それをギュッと凝縮したのがサッカーの世界だとオシムさんは言いたかったわけです。
 8月唐突に次男の世話が一手に圧しかかってきました。妻が両親の世話で急遽実家へ行かなければならなくなったからです。次男は1級障害児。特に足は一切動かないので、トイレの度に連れて行って便器に座らせなければなりません。
 さてこうなると諸々スケジュールの調整が必要になります。まずアジアチャンピオンズリーグ(ACL)の取材申請は1日1試合に絞り、楽勝が予想される準々決勝までの浦和戦は全てキャンセル。もちろん念のためにおむつは履かせて出かけますが、出来れば洩らす前に帰宅したいところです。仕事の日程も次々にずらしましたが、それでも万全を期して臨んだはずのインタビューの最中にトイレ行きを告げる電話が鳴ります。
「さっき行ったばかりじゃん!」
 こんな慌ただしい日々の真っ最中に、やって来たのがオレンジソックスでは異例の長丁場でした。12時50分から15時までセカンド。それから4時間も通常の活動時間が確保されています。要するに計6時間10分、こんなにフル稼働したのでは、僕の体力もさることながら、それ以前に次男の膀胱が持ちません。
 まずセカンドは、ごめんなさい、とキャンセル。通常活動の方もフル稼働は無理なので、敢えて遅刻をして半分くらい終わったところで1度自宅に戻ろうと考えました。
 しかし僕が体育館へ到着した時点で、みなさん、結構なヘロヘロぶり。そりゃ、そうです。真面目な方々は、セカンドからひとつひとつのメニューに真剣に取り組んで来た模様。
真夏にサッカーをやっているのは、日本を筆頭に限られた国だけで、ACLの日程も欧州型への変更が決定しています。
 さすがにメンバーの健康を気遣った代表が、活動時間を1時間ほど短縮すると判断。おかげでそのまま最後までプレーし、ダッシュで家に戻ると次男のおむつもなんとか無事でした。
 さてこうして冷や汗が噴き出しまくりの約1週間を終え、ようやく妻が帰宅し通常活動が再開した土曜日のことです。最寄駅に到着すると、西武線が人身事故でまったく動きません。ということで、今度はJリーグをキャンセルして自宅へUターン。それだけで汗だくになりました。
 ま、でもサッカーの取材で、こんなことは日常茶飯事です。ミラノまで飛んでトリノまで車を飛ばしたら霧でユヴェントス戦が中止とか、米国ワールドカップでは天候不順で飛行機が飛ばず、アルゼンチンーナイジェリア戦が見られなかったこともありました。人生もサッカーの試合も、想定外の出来事に直面した時に動じないメンタリティが大事だということだと思います。
 夏場は参加者減の傾向が顕著で、こうして代表判断で早めに終わることが少なくありません。僕も1度到着して30分程度で終了してしまいショックを受けたことがありましたが、しっかり満喫するには、諸事情を考えてもなるべく遅刻をしない心がけが大切なようです。