松蔭からの学び「士」LEADERSHIP 序

 

無駄を削ぎ落とす

集団社会で生きていくことは楽じゃない。

まわりに能力を認められるまで、

居場所を手に入れるのに必死だ。

ひとたび自分の居場所を手に入れれば、

今度はさらに居心地を良くするために、

ひとつ上の暮らし、地位、家族、実績……などを手に入れようと必死になる。

そうするうちに、いつしか人は「居場所を守るため」に生きるようになる。

そのためだったら、たいていのことはできるようになり、

生き方や信念ですら曲げられるようになる。

安心感を求めるのは生存本能だ。

だが、松陰はそういう生き方を嫌った。

「安定した生活」の先には、

目に見えぬものに怯える、つまらない日々しか待っていないと知っていたからだ。

松陰が理想としたのは武士の生き方だった。

士農工商という制度に守られていた武士は、

なにも生み出さずとも禄(給料)があったが、

その代わり、四六時中「生きる手本」であり続けなければいけなかった。

武士は日常から無駄なものを削り、精神を研ぎ澄ました。

俗に通じる欲を捨て、生活は規則正しく、できるだけ簡素にした。

万人に対して公平な心を持ち、敵にすらもあわれみをかけた。

自分の美学のために、自分の身を惜しみなく削った。

目の前にある安心よりも、正しいと思う困難を取った。

そのように逆境や不安に動じることなく、

自分が信じている生き方を通すことこそが、

心からの満足を得られる生き方だと、松陰は固く信じていた。

本当に大切にしたいことはなにか。

大切にしたいことのために、今できることはなにか。

その問いのくり返しが、退屈な人生を鮮やかに彩る。