自己実現への挑戦、何で憶えられたいか問う~ドラッカー「プロフェッショナルの条件」

 

イメージ 1 ドラッカーは「プロフェッショナルの条件」の最後に「私個人の経験も参考になるかもしれない」として、自分の人生を変えた7つの経験を紹介しています。

 

1.「ヴェルディの教訓(目標とビジョンをもって行動する)」。

80歳という年齢で並み外れて難しいオペラの曲を書いたヴェルディは「いつも失敗してきた。だからもう一度挑戦する必要があった」と言った。

 

2.「フェイディアスの教訓(神々が見ている)」。

人々からは見えない背中の部分まで丹念に彫刻を行ったフェイディアスは、何故そんなことをしたのかと問われて、「彫像の背中は見えないが、神々が見ている」と言った。

 

3.「記者時代の決心(一つのことに集中する)」。

ドラッカーは新聞記者時代に、有能な記者として知らなければならないことは全て知ろうと決心し、仕事が終わった後の時間は、徹底的に勉強した。

 

4.「編集長の教訓(定期的に検証と反省を行う)」。

ドラッカーの勤め先の新聞社の編集長は、定期的にドラッカーの仕事振りについて振り返りを行い、次になすべきことについて話し合い、決めていった。

 

5.「シニアパートナーの教訓(新しい仕事が要求するものを考える)」。

新しい任務に就いたら、仕事の仕方を変える必要がある。多くの人は、役割が変わっても以前と同じ仕事をしているため、新しい役割に期待された成果があがらない。

 

6.「イエズス会とカルヴァン派の教訓(書きとめておく)」。

イエズス会の修道士やカルヴァン派の牧師は、何か重要な決定をする際に、その期待する結果を書き留めておき、これによって自らの強みと何ができないかを知った。

 

7.「シュンペーターの教訓(何によって知られたいか)」。

シュンペーターは本や理論を残すだけでは満足できず「人を変えることができなかったら、何も変えたことにはならない」と言った。そしてドラッカーは最終的に「自分が何によって憶えられたいか」を問い続けることが大切だと説きました。そうすることで自らの成長を促し、人生を有意義なものにできるからです。

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【日本的にまとめられたドラッカー7つの教訓】

1.目標とビジョンをもって行動する

2.常にベストを尽くす。

 「神々が見ている」と考える

3.一時に一つのことに集中する

4.定期的に検証と反省を行い、計画を立てる

5.新しい仕事が要求するものを考える

6.仕事で挙げるべき成果を書き留めておき、

  実際の結果をフィードバックする

7.「何をもって憶えられたいか」を考える

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 プロフェッショナルの成長とは

 「能力が無くては優れた仕事はあり得ず、自信もあり得ず、人としての成長もあり得ない」。「プロフェッショナルの条件」の中でドラッカーはこう言っています。プロフェッショナルは常に成長する意識を持つ必要があります。ドラッカーは同書の最終章「何によって憶えられたいか」のなかで、「成果をあげるための第一歩は、行うべきことを決めることである」と説いています。ここではA社の目標管理・評価のしくみを例にとって、「プロフェッショナルを成長させる方法」について一緒に考えてみましょう。

 A社では毎年、年度の初めに各社員が一年間の仕事を通じて何を達成するか、という目標を定義し、上司とその内容を確認するきまりになっています。まず社員は、自分が認識している自分の役割を書き出します。それと共に、その仕事において自分が既にできていることと、さらにレベルアップするためになすべきことを書きます。そして、直属の上司と話し合い、向こう一年間の仕事を通じて到達すべき目標を定義します。

 ドラッカーは「組織内での上司と部下の間のコミュニケーションにおいては、同じ問題に対して見方が異なるケースが少なからず発生する」と言っています。A社では、目標や課題について書き出し、上司と部下の間で対話することによって、こうした意識のギャップを解消しようとしています。

 ドラッカーが目標設定と同様に重視しているのが「フィードバック」です。A社では上期末と年度末の2回、再び上司と部下で目標の達成度を確認します。A社では、定型業務として定められた仕事の他に、ある特定の目的のために複数の部署から人を集めて実施する、プロジェクト形式の業務が多く発生します。ここでの仕事ぶりは、所属元の組織の上司とは別の上司がみているため、このプロジェクトの上司からもフィードバックをもらう必要があります。

成長とは誇りと自信

 そこでA社では、プロジェクトの上司とラインの上司の間で評価結果の擦り合わせを行い、総合的な観点から最終評価を決定するプロセスになっています。こうすることによって、社員の仕事内容および貢献度を正しく認識し共有することが可能となります。

 ドラッカーもこう言っています。「成長するということは、能力を修得するだけでなく、人間として大きくなることである。責任に重点を置くことによって、より大きな自分を見られるようになる」

 これを実践するためA社では、目の前の業務を確実に遂行するという目的だけではなく、長期的な視点で、どのように社員のキャリアを育成し成長させていくか、という視点を重視しています。しかしこの短期と長期の2つの視点を同一人物が持つことは困難なので、A社では業務上の上司とは別に、キャリア育成のための上司を別に付けています。キャリア育成のための上司は、社員が一つ上のステップに行くためには、どのようなスキルを身につける必要があるか、そのためにどのような研修が必要か等を長期的な視点からサポートします。またこの上司は社員のメンターとして、精神的な相談相手にもなります。このようにしてA社では、仕事、成長、成果の全てを多元的に把握するしくみを運用しています。

 ドラッカーはみなさんのような若いビジネスパーソンを励ますように、こう言っています。「(成長とは)うぬぼれやプライドではない。誇りと自信である。一度身につけてしまえば失うことのない何かである。目指すべきは、外なる成長であり、内なる成長である」