ついにその日がきた


黒板五郎の遺言 2002

純、 蛍、
俺には、お前らに残してやるものは、なんもない。
でも、おまえらには、うまく言えんが、残すべき物は、もう、残した気がする。
金や品物はなんも残せんが、残すべき物は、伝えた気がする。

正吉や結ちゃんには、おまえらから伝えてくれ。

俺が死んだ後の麓郷は、どんなか?
きっと、なんにも変わらんのだろうな~。

いつもの様に、春、雪が溶け、夏、花が咲いて、畑に人が出て、
いつものように、白井の親方が夜おそくまでトラクターを動かし、
いつものように、出面さんが働く。

きっと、以前とおんなじなんだろう。

オオハンゴウソウの黄色の向こうに、
雪っ子おばさんや、すみえちゃんの家があって、
もしも、おまえらがその周辺に、拾ってきた家を立ててくれると、うれしい。
拾ってきた街が、本当に出来る。
アスファルトのくずを弾きつめた広場で、快や孫達が遊んでたら、うれしい。

金なんか望むな。幸せだけを見ろ。

ここには、なんもないが自然だけはある。
自然は、おまえらを死なない程度には、十分、毎年食わせてくれる。
自然から頂戴しろ。

そして、謙虚に、慎ましく、生きろ。

それが、父さんのお前らへの遺言だ。