お前ら、負けて逃げるんじゃ。

わしらを裏切って逃げ出して行くんじゃ。

そのことだけは、よく覚えとけ。

 

【北村清吉の言葉】

 

清吉 「 ちょっと早く着きすぎたな。お茶でも飲むか。」

雪子「あの、お忙しいのにすいません。あとはもう私、大丈夫ですから。」

清吉「見送りには慣れてるよ。何度もここで見送ったからな。」「なみだ船って歌知ってるかい?」

雪子「はい。」

清吉「不思議なもんだなあ。流行歌ってやつはさあ、その歌聴くとその歌が流行ってたその時代の出来事を思い出す。あの年はひどい冷害でねえ、おまけにトラクターが導入されて営農方式がどんどん変わってさ、一緒に入植した連中が家をたたんで次々と六合を出てった。11月だったなあ。親しかった連中が4軒一緒に離農してってね、その時わし、やっぱり送りに来たもんだ。雪がもうチラホラ降り始めてな。北島三郎が流行ってた。出ていくもんの家族が4組、送る方はわしと女房の二人。誰もひと言もしゃべらんかった。だけどな、そん時わし、心の中で正直何考えてたか言おうか。お前ら、いいか、負けて逃げるんだぞ。20何年一緒に働き、お前らの苦しみも悲しみも悔しさもわしゃあ一切知っているつもりだ。だから他人にとやかくは言わせん。他人に偉そうな批判はさせん。しかし、わしにゃあ、言う権利がある。お前ら、負けて逃げるんじゃ。わしらを裏切って逃げ出して行くんじゃ。そのことだけは、よく覚えとけ。」

 

倉本聰作「北の国から」第3話より

清吉…大滝秀治

雪子…竹下景子

純 …吉岡秀隆

BGM「ホームにて」中島みゆき

 

https://youtu.be/9PgoczoynQY