厳しい時が本当の勝負
サッカー人として 三浦知良
日本経済新聞
サッカーを戦術的に語る人なら、今やそこらじゅうにいる。「うちは3バックの方がいいのでは?」 「ボランチのマーキングがどうも……。もっと守備的な子にしてみては」。小学生の親が、少年団チームの監督に意見するみたい。熱意のほどは分かるんだけどさ。
僕は試合を見る側に回るときは、まずは1ファンとして見る。専門的観点はひとまず置いておく。戦術も戦略も大事だけど、それ以外の要素で動くのが現場でもあるから。もちろん「戦術的に面白かった」という試合もある。でも理屈抜き、説明抜きで素人でも面白いと直感できるものが、本当の面白さとも思うんだ。
J1昇格レース佳境での直接対決になった横浜FC-大宮戦は、サッカー通でない知人でも「見ていて面白かった」と言ってくれた。互いに譲れない、負けられないという緊迫感が伝わったんだろう。川崎-神戸戦も最高に楽しめた。コンコンと連なるパスのあの小気味よさ、イニエスタも川崎へ移籍したくなるんじゃないかというくらいだ。ドリブルありパスでの崩しあり、そんな日本代表のウルグアイ戦も見る人に訴えるだけのものがあったよ。
選手とは違って監督は、感情を表に出すべきでないときがあるのが大変なところなんだろう。森保監督も内に秘めた意思は固いのだけれど、生の感情をあまり出さない。同時に謙虚でもいる。一番難しいことだ。たぶんいい意味でのドライさ、情に流されぬ冷徹さも持っていて、それが監督業での決断でプラスに働いているんじゃないかな。期待
の膨らむ船出になったね。
ただ本人も覚悟しているだろうけど、この先には壁も待つ。監督が代わりたての頃は誰にもワクワクとドキドキがあり、アグレッシブになれる。ウルグアイに勝ったのは22年ぶり、その1996年の一戦は僕が2点取った。あの時も充実と高揚があった。でも本当の勝負はそこではないのだと、やがて思うようになる。
来たるべくして来る厳しい時こそ「自分たちがしっかりしたい」と長友佑都選手らは僕に言ってきた。ガンガン攻める若手を支えるベテランの存在も、忘れないでほしい。
いいことばかりは続かない。壁は訪れる。でも、壁がなければ強くもなれない。
