試合進行にも美学を 
アナザービュー・日本経済新聞

 Jリーグの浦和が10年ぶりにアジア王座に返り咲いた試合を見ながら、胸をなで下ろした。何とか試合が荒れずに終わったことに。2度ワールドカップ(W杯)の笛を吹き、現在アジアで「ベスト」とされるイルマトフ主審(ウズベキスタン)の毅然とした試合進行に救われた思いだった。
 アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)は、タイトルに懸ける思いがあらぬ方向にヒートし、「なんだこれは」という場面が時に噴出する。今大会の浦和の歩みを振り返っても、韓国の済州は2戦合計で逆転された試合で冷静さを失い、複数の退場者を出した。
 準決勝の相手、上海上港のフッキにも驚かされた。負傷者が出て主審がプレーを止めた場合、直前までボールを持っていた側からプレーを再開する常識を無視。浦和にボールを返さずに攻め込んだ。こうなると仁義もへったくれもない。
 準優勝のアルヒラル(サウジアラビア)にとって痛恨だったのは決勝第1戦の19分に得点源のMFを負傷で失い、2戦目も使えなかったことだろう。この負傷、反則覚悟のタックルを仕掛けて自ら招いたように見えた。決勝第2戦では終盤にラフプレーで退場者を出した。そんなこんなで、実力は浦和より上なのに入れ込みすぎて、勝手につまずいた印象が残る。
 ACLの浦和は決勝戦まで14試合を戦った。相手より多くカードをもらったのは1次リーグのFCソウル戦(警告2)、上海上港戦(警告1、退場1)だけ。激しく応戦しつつ、熱くなる相手にとことん付き合うことはなかった証拠だろう。
 Jリーグにいる外国人の監督や選手から、「日本の選手はずる賢さが足りない」とよく指摘される。が、アジア勢の中に入るとむしろ、駆け引きのうまさが武器になっている気がする。大会で上のラウンドに進んで審判のレベルが上り、反則をきちんと見抜いてくれるようになるほど、Jリーガーの自制心はより輝きを増す感もある。
 そのあたりのゲームマネジメントはアジア全体でもっと向上させたいところでもある。最高峰のクラブを決める戦いで、乱暴行為を含む小競り合い、悪質な反則がはびこるのは情けない。読後感の良い試合をさらに数多く提供していかないと、「チャンピオンの集まり」の看板が泣く。