匠――選手権 2010.01

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決勝戦で国立競技場が満員になっているのを見て、不思議な気持ちになったね。
高校選手権が初めて関東地区で開催されたのが1977年。
俺はその大会で静岡学園を率いて、初出場で決勝まで行ったんだ。
その時が34歳だから初々しいよな。
決勝の相手、浦和南は松本暁司監督というまさに百戦錬磨の指揮官。
浦和南は前年度の大会でも優勝していたし、一方で静岡代表と言えば4年連続で決勝に進出していた。
そんなこともあって、かなりのプレッシャーを感じていたことを憶えているよ。

決勝では4-5という凄まじい試合を展開した末に負けてしまうんだけど、あの時も国立が満員になったんだ。
当時は、サッカーではもちろん、ブロ野球の人気カードでもない限りスポーツ観戦で5万人が集まるなんてことがなかった時代。
アマチュアの、しかも高校生の大会で実現したんだ。
その時のことがオーバーラップしてきて、不思議な感覚を覚えたんだよ。

決勝を見ながら感じたのは、高校選手権という大会が、ひとつの文化になってきたということ。
高校生たちの"なにか"に期待しているからこそ、あれだけの人が集まるんだと思う。
バルセロナーレアル・マドリーの"クラシコ"をはじめ、ヨーロッパや南米でも伝統的な一戦があって、そういう試合の注目度はおのずと高まる。
そんな現象が高校サッカーの大会で起こっているというのは、立派なことだと思うね。

今大会の山梨学院を見ていると、横森さんが昔、率いていた韮崎を思い出したね。
武南や帝京の強い頃に似ているんだけど、しっかり守って、ボールを奪ったら手数をかけずに素早く攻める。
自分たちがボールを持った時に急がないところは少し変わったなと思ったけど、良い位置でボールを奪った時の速攻のスピード感は、戦術的な完成度の高さを感じたね。
報道などで伝え知るところだと、決勝戦前日の過ごし方に余裕があったみたいだし、選手たちを上手くリラックスさせて、非常に良い状態で試合に臨めたみたいだね。
準決勝は、青森山田のほうに分があると思っていたけど、決勝では、山梨学院がハツラツとしたプレーで攻め立てていた。
サッカーにはやはり経験が必要だと感じたし、ベテラン監督の重要性を改めて示したとも思っている。

大会の印象としては、どちらかと言うと、体力、気力を前面に出すチームが多かったし、そういうチームが勝ち上がってきていた。
そして、今年も飛び抜けた才能を感じさせる選手がいなかったね。
ひと昔前なら、優勝を狙うようなチームには、将来を嘱望されるような選手が2、3人いたものだよ。青森山田の柴崎は興味深い選手だけど、スケールの大きさを感じたのは彼くらいだろうか。
その背景にはJリーグの下部組織に良い選手が流れてしまうことが挙げられる。
そのなかで高校サッカーは、どれだけ良い素材を集められるかというところに来ているんだ。
山梨学院のメンバーはJリーグ下部組織出身選手がほとんどを占めていたように、3年間で選手を鍛え上げるという時代は終わったとも言えるね。

俺も含めて、高校サッカー界の指導者の世代交代も感じるし、高校選手権は6年間初優勝が続いている。
地域の格差がなくなってきたのは間違いないし、どのチームも優勝するチャンスがある。
そういう状況のなか、選手や指導者たちがひた向きに戦う姿が感動を誘って、高校選手権がここまで繁栄しているんだと思う。
日本サッカーを支えている、ひとつの柱であることは間違いない。

大切な文化として根付いているこの大会を、これからも大事に育てていってほしいね。