◆指導者と選手と言えども一人の人間同士 真っ直ぐな目線で向き合え!

【静学スタイル p195】

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 小学生や中学生がいじめを苦にして自殺するという事件は、この時代、枚挙にいとまがない。
 俺が教えてきたチームも、そこまで陰湿ではないにしろ、いじめのような出来事は確かにあった。
 下手な選手、足の遅い選手は、どうしてもバカにされがちだ。
 俺自身も子供を発奮させるために、「バカ、ヘボ、もたもたしてんじゃねえ」「もっとちゃんとできないないのか」といった言葉を囗にすることはある。
 それで、その子が「いじめられた」と泣いたり、苦にしたりするなら、俺はこうやって励ますよ。
「お前、そんなふうに泣くなら、空手を習ってこい」
「しばらく練習を休んで、空手を習ってきて、いじめるやつをぶっさらえよ」
「今度、こいつに空手を習わせるから、お前らみんなでいじめないで、1対1で勝負しろよ」
 普通の教師だったら、いじめたやつを呼び出してガミガミ説教して、「2度とそんなことはやるんじゃない」と頭ごなしに言うだろう。
 だけど、俺は1人ひとりの顔や姿勢、性格をよく見て、対応する。
 冗談交じりに言うと、場が和むこともあるだろうし、いじめられているやつも、いじめているやつも、深刻な関係にならないで済むかもしれない。
 自分が指導者だからって、大上段から構えて子供を叱ったりすれば、逆効果になることも少なくないんだ。
 相手が男だろうが、女だろうが、年上だろうが、子供だろうが、誰とても自分をさらけ出して、対等に付き合うというのが俺の流儀。それを相手が受け入れてくれればいいし、離れていくやつは仕方ない。
 ある意味、「来る者は拒まず、去る者は追わず」というのが、井田流だ。
 ただし、指導する立場にいる以上、子供は平等に扱うという鉄則は守っているつもりだ。
 子供だちの様子を見ながら、いろんな場面で声をかけるようにしている。
「お前、昨日はよかったぞ」
「ケガはどうだ? よくなったか?」
「風邪ひいたんじやなかったのか、大丈夫か?」
 こうやってコミュニケーションを取っているんだ。
 子供の方も、こっちがしっかり見ていることが分かれば、きちんと向き合ってくる。
 ストレスがあったり、練習に不満があったり、誰かをいじめたりしているやつは、すぐに顔や態度に出る。それをこっちか感じ取って、向き合ってやれば、自殺や暴力沙汰といった大事に至る前に解決できるはずだ。
 そういうアットホームな雰囲気を、俺は学園で作ってきたつもりだ。そのDNAを引き継いだ指導者たちも、いい伝統を理解し、今に生かしてくれていると思う。
 前にスタッフを集めて飲み会を開いた時も、順天堂大学から2016年春に川崎フロンターレに入ることが決まっている長谷川竜也も飛び入り参加してきたけど、指導者とOBの関係はそれくらい近い。人と人との関係を大事にしてきたから、教える側と教えられる側の垣根を超えた人間関係が構築できる。
 それは、俺自身にとっても大きな財産になっている。
 いじめ問題について、1つ付け加えさせてもらうと、いじめなんていうのは強いチームであればあるほど起こりにくいものだ。
 強いチームはみんな1つの目的に向かって熱く燃えている。勝利とか自分自身のレベルアップに選手個々が集中している、人のことをいじめている暇があるなら、その時間を自己研鑚に当てて、すごい選手になりたいと考えているんだ。
 弱くてろくでもないチームには、いじめる時間も余裕もある。くだらない暇が多すぎて、向かうものが明確になっていないから、そういうことになる。
 先生がトロくて、きちんとまとめられないと、学校や部活もバラバラになる。
 そういう無駄な時間を作らないように、目標設定をきちんとすること。そして指導者は子供たちとしっかりと向き合うこと。
 それを忘れてはいけないと思う。