「夢の劇場」との落差
フットボールの熱源
日本経済新聞

欧州選手権の舞台となっているスタジアムはそれぞれが異彩を放ち、中には劇場や美術館、神殿、あるいは宇宙基地のような意匠をこらしたデザインのものもある。欧州各地から集まったサッカーファンは「夢の劇場」の姿に胸を躍らされ、カメラを向ける。
10会場のうちボルドー、ニースなど4つが新設。マルセイユ、ランスなど5つの改築スタジアムも1998年ワールドカップのときとは全く別の姿になった。9会場の総工費は16億8000万ユーロ(約2000億円)と伝えられる。
残念ながら新設スタジアムは同都市の旧スタジアムと比べて中心街から遠くなった。リヨンは町から10キロ、リールは6キロ離れている。その分、スタジアムまでの公共交通機関を整備している。
リヨンはスタジアムの目の前までトラム(路面電車)で行ける。試合開催日はノンストップ便を運行し、入場券を持っていれば無料。リールでも試合後、無人運転の地下鉄を短い間隔で頻発し大観衆をさばいている。
列車やトラムが到着するまで人をホームに入れないのがフランス流。その都度、人数を数えて誘導し、乗り終えるまで長い時間、列車を止めておく。安全策がよく練られている。
もっとも、サンテティエンヌではイングランドサポーターがトラムの線路まであふれ、運行を妨げた。係員が人を排除しながらトラムを先導して歩いているのだから異常。のんだくれのイングランドの若者たちがトラムの運転士にビールを勧め、運転士もグイッとやっているのだからかなりの無秩序状態だ。
新装なったマルセイユのスタジアムではロシアとイングランドサポーターの常軌を逸した乱闘があった。こういう傍若無人なファンには劇場のようなスタジアムはもったいない。
(吉田誠一)