自分の感受性くらい 茨木のり子
 
イメージ 1自分の感受性くらい 
 
ぱさぱさに乾いてゆく心を
 ひとのせいにはするな
 みずから水やりを怠っておいて
気難しくなってきたのを
友人のせいにはするな
 しなやかさを失ったのはどちらなのか
苛立つのを
近親のせいにはするな
 なにもかも下手だったのはわたくし
初心消えかかるのを
暮らしのせいにはするな
 そもそもが ひよわな志にすぎなかった
駄目なことの一切を
時代のせいにはするな
 わずかに光る尊厳の放棄
 自分の感受性くらい
自分で守れ
 ばかものよ
 
 
 
 
倚りかからず   
      もはや
     できあいの思想には倚りかかりたくない
     もはや
     できあいの宗教には倚りかかりたくない
     もはや
     できあいの学問には倚りかかりたくない
     もはや
     いかなる権威にも倚りかかりたくない
     ながく生きて
     心底学んだのはそれぐらい
     じぶんの耳目
      じぶんの二本足のみで立っていて
     なに不都合のことやある
     倚りかかるとすれば
     それは
     椅子の背もたれだけ