最終話 サヨナラの彼方

その日の日付が変わる午前0時
友里奈がユズを見つけた公園に 3人はいた

ひと晩眠れず 朝方やっと眠りについた3人が目覚めると もうすぐ正午だった

ユズは完全に記憶が戻ったことを伝え
相談して決めたこと
あと半日後には決行することになる

「友里奈が重忠を見つけた場所ではないと思うんだ」
重忠は意識もおぼろげながら這ってきて力尽きて
それを私が見つけたのね」
友里奈が翌日に東堂柚流……トウドウユズルと名付ける前は『名前も知らない鎧の男』……まぎれもない重忠だったのだ だからそこはあえて重忠の名前を口にした

「公園の端に傾斜になっている草むらがあるだろ
あそこに行って転がり落ちてみないか?」
そんなシーンをいつだかドラマで見たような気もする…

「なんか まやかしみたいで恥ずかしいけど これ……」
「武士の鏡ね それを?」
「これで月の光を当てても関係ないかもしれないけど……」
「ユズに光を当てるってこと?」
「胡散臭いか?子供じみてるか?」
翔平は頭を掻いた
「そんなことないです お願いします」
ユズは真剣な顔をしている

2時間ほど前 友里奈の部屋で
ユズは支度を整えた 
鎧をつけ 烏帽子を被った

「夜中だから 誰もいないよね……でも 見られてもコスプレのフリしていればいいや」
友里奈は自分も浴衣になった
「それはコスプレではないと思うよ」
翔平は突っ込みながらも 
やっぱり綺麗だな……つい見とれてしまったのだ
「ユズ…あ 重忠か
でも…ユズでいいよね お別れまで」
ユズは少し微笑んで頷いた
「髪は烏帽子で隠れるけど 後ろが出ちゃうわ」
友里奈はピンで後れ毛を止めた
「後ろから見られないようにしてね 見つかったら適当にごまかしなさい」
ユズは妙な顔をする 友里奈も言っておきながら無責任なのはわかって苦笑いして付け足した
敵に 後ろを見せちゃだめよ

公園も外れの方は灯りの数が少なく
互いの顔もぼんやりと見えるくらいだった

「お別れね ユ……重忠に戻るのね」
「ユズでいいですよ 最後まで」
少しだけ歪み 微笑んだ
「友里奈さん 
翔平さん ありがとうございました」

頭を下げ ユズは2人から離れていく
「ユズ!元気で!」
振り返らずにユズは歩いていく
振り返ったらまた今夜も一緒に過ごしたくなる
ユズはそれがわかっていた

そして0時
ユズはゆるい崖に立った 
凛とした姿を友里奈は目を凝らして見ていた
翔平は武士の鏡を手にその姿に月の光を当てる
ユズは横になり草むらを転がり落ちる

一分がたった
翔平と友里奈は ユズの立っていた場所に駆け寄った
そして草むらを見下ろす
「ユズ……」姿は見えない 
「ユズ!」「ユズ!!」
翔平も一緒になって名前を呼ぶ
「ユズ……重忠!……重忠!」
「いないの?……ユズ……重忠!」

草むらを下りてみた
あたりを見てもその姿はなかった

「戻れたってことよね」
「姿がまったくないのは そうだよな」
「あっけないわね……成功したのに」
ほろりと涙した友里奈の肩を翔平はぽんぽんと叩いた

(喜んであげなきゃね……)
「明日の全校集会では 言わないと 
東堂先生は急に引っ越すことになりまして……」
気丈に言ってはみても やはり涙声になる
「きっと…戻って 立派な武士になるよ」
どちらともなく 踵を返し駐車場に戻っていく
「あの子はいい子だしとても魅力的だったわ…きっと みんな好きになる……」

友里奈が元気を取り戻したと思ったのか
翔平がニヤニヤしている
「あのね…人としてよ
私の息子といってもいい年の差なのよ」
(でも……もし30歳…せめて20歳若ければどうだったかしら……思うのは自由でしょ ふふ)
口には出さずに友里奈は夜空の星を見上げた

翔平の車に乗り ふっとため息をつき
友里奈は尋ねる
「ユズは重忠に戻って 記憶はどうなのかしら」
「ここに来た時の逆を考えたら…多分 忘れる」
「うん……その方がいいわ 寂しいけど」
「俺の作っだ武士の鏡があれば別だけどな」
「えー?その効果??」
大笑いする2人 そして2人とも思った

そう……忘れていい 
あなたは 畠山重忠として生きるのだから

帰宅して 友里奈は武士の鏡をスカーフで包む
ユズが毎晩その手にした鏡
記憶を蘇らせてくれたのか
その手助けをしただけなのかわからないが

ユズを見つけた日につけていたスカーフで
その鏡を丁寧に包み ドレッサーの引き出しの
一番奥にしまった もう使うことはないだろう

ユズは
およそ800年を遡って……そして 重忠は……
気がついたときには藪の中だった
寝ていたのか……?
私はどうしたんだ……?
見守ってくれているように三日月もそばにいる
「そうか……三日月と一緒に転がり落ちたのだ」

重忠はゆっくりと立ち上がる
三日月の頭や背中を撫でながら思い出すのは昨日のことか……その前の日か
(あの時 三浦殿になかったことにいたしましょうと申し上げたのに……坂東武者どうしで戦をするなんて無益だ…しなくていい戦は……しなくていい
三浦義澄殿も「あいわかった」と……
なのに……和田殿がしかけてきたのだ……)

重忠は三日月にまたがった
(悔しいが 言い訳はするつもりはない
大庭殿にどれたけ責められようと 
三日月……お前がわかってくれていれば…………それでいい)
大庭の館に着き 三日月から下りる
(おや??)
重忠が首の汗を拭うと 小さく細く固いものに触った
取ってみると黒い……それは一つではなかった
なんだろう……これは……
そしてなぜ?なぜ髪が短くなってる?

気を失っていた間に 誰の仕業?

しばらく不思議に思っていた重忠も 髪が伸びる頃には気にならなくなり 
抱いた疑問も遠ざかっていった
誰にも何も言われなかったのは……どこからか聞こえてくるような気がするのだ 遠い遠い記憶なのか
敵に 後ろを見せちゃだめよ
重忠が 波乱万丈の人生を全うして
武士の鑑と語り継がれることになったのは
言うまでもない

何日経ってからだろう
友里奈に届いた翔平からのライン

『友里奈 やったよ!重忠が……』
『どうしたの……?嬉しいことなのね
ごめん 今 手が離せないから
夜でいい? ゆっくり話しましょ』

友里奈も早く知りたくて 仕事の手を速め
退勤時刻にはきっちりと終わらせ
待ち合わせのイタリアンへと向かった

(翔平の嬉しそうなことといったら……)
友里奈の姿はを見つけ 手まで振っている
(プロポーズに私がイエスを返した時くらい?
それ以上?まあ……いいわ)
友里奈だってワクワクしているのだ
「家にある本を見たんだよ 俺 時々見てたけど
前だったらね……石橋山の戦いのあとは
どこにも重忠の名前なんてなかったのに
ちゃんと載っているんだよ そして
頼朝に帰順して 先陣を言い渡されたんだ』

友里奈は学園の理事長とはいえ
教科書にも載っていない畠山重忠のことはほとんど知らなかった 数ヶ月前までは

翔平の話を聞きながら 浮かぶのはユズの姿
(やっぱりね 戻ったあなたも輝いていたのね
そして 立派になっていったんだ……)

嬉しそうに聞いていた友里奈だったが
その顔がだんだん曇ってきた

「どうして……?どうしてそんな理不尽な目に……
そして重忠の最期を知ると
翔平が思った通り 涙がその頬を伝った
(無理もない……俺だってショックだったよ)

片手にピザの一切れを持ったまま 沈黙が流れる

友里奈が涙を拭い 顔をあげた
「さすが 重忠 やっぱり武士の鑑と誰もが認める人になって その生涯を終えたのね」

「出かけるわよ ユズ」
友里奈がそういうと 「はいっ」といつでもすっくと立ち上がり キリッとした顔をしていた

それがほんの数ヶ月前なのに

「私も 一冊買ってみるわ 畠山重忠の本を
えっと……まだ間に合うわよね」
友里奈は時計をチラッと見て おもむろに翔平の方を見ると その顔はわかってるよ……の表情
「選んであげるよ さ 急ごう」
書店は明日も開くものだ
だけど友里奈は…今夜 今 行きたかった



🍁

それからまた数ヶ月たった
2020年11月17日 昼過ぎのことだった

翔平から送られてきたニュースに 何?
開いてみると 三谷幸喜氏が現れ
翌々年の大河ドラマの出演者を発表していた

「若手御家人筆頭……畠山重忠」と少し間があり 
次に 若き役者が映された
その姿……顔
ユズ……… ユズ! 胸の鼓動が速くなる
と同時に目頭が熱くなり
体中になにやら温かいものが駆け巡る
衝撃だとか 電流が走るような感覚ではなく

いつまでも包まれていたい まるで羊水の中にいるような……

(……って羊水にいた記憶はまったくないけど)
自分にツッコみ 友里奈は翔平に向け発信する

「すごいわ……再来年はまだ先だけど 楽しみができたわ……」
「中川大志……確かに そう言えばユズにそっくりだな」
「気づかなかったわ ユズはユズだったから」
ふふふっと笑い声がしたあと
「大河ドラマは1年間か……私の部屋の4Kで見せてあげてもいいわよ」

うちだって4Kだけど……
ユズとの一週間を思い出してまた泣けちゃうオバサンにつきあってやるか……

それは口に出さずに 
翔平は「そうだな」と笑って返した




あぁ……読んでくださった皆さま
ありがとうございます

時系列云々をはじめ ツッコミどころはあるかもしれませんが 見逃して下さい笑
いかがでしたか?
個人のイメージです
天海さんは本名がゆりさんなので
そこから名前を決めさせていただきました

オリジナルを書く時は大志くんしか決めてなくて
ヒロイン達は頭にないのですが(スペクトラムの杉咲花さんは例外)
今回は頭に天海さんや沢村さんを想像して書いていました それもまた 楽しかったです

ありがとうございました🙇‍♀