「理人くん 時間よ 早く早く」
幸恵の声がする
鏡に映った自分の姿を見て シャツの衿を直し
幸恵の方に向かっていった
結婚式の披露宴で 
理人たちはバイオリン演奏を頼まれているのだった
「あれ?也映子さんは?」
理人は周りをキョロキョロと探したが・・
次の瞬間 幸恵と並んでバイオリンを弾いていた


会場の出席者の温かい眼差しを感じて いい調子で弾けている感触があった
曲の半分ほど弾いたところで 司会者が
「それでは お色直しをしました花嫁の入場です」
拍手が一瞬 バイオリンの音をかき消したが
それもすぐに止み バイオリンの音色と共に
ドレスの花嫁が入場してきた
幸恵と理人の演奏するステージに ドレス姿の花嫁が近づいてくる
弓を動かしながら 理人は目線をステージの袖に動かした
え!?

なぜ 也映子さんが・・・?
そのあとは弓をどう動かしていたのかもわからない 
也映子さん・・・
ハッと目があいた場所は 自分の部屋
朝の光がカーテンごしに
柔らかく部屋を照らしていた

夢か 
夢だとしても 相手は誰だったんだろう
正夢なんて事はないよな

也映子とはもうひと月会っていない

きっかけは 些細なこと
半分は心にもないようなことだったはず
何か抱えていて 拭えきれていないものがあったのか

触れられたくない所まで 傷ついて
お互いに 優しさをもつ余裕がなかったのか

このままでは 気持ちが荒れ ボロボロになりそうで
理人と也映子は 一旦距離を置いた

也映子はどうなんだろう
このまま ひと月がふた月となってしまうのだろうか
このまま別れることになったら

自分の人生に也映子が一緒にいることしか考えられずにここまできたけれど
それは まだ誰ともつきあったことがなかったから?
もしかしたら 別の人と出会ってつきあえば
また その人を愛せるようになるんだろうか
いや そんなことは考えられない

理人はあと1ヶ月後に就職を控えていた
研修は2週間後にある
自分自身 忙しくなることは目に見えていた

📅
一方 也映子は あの日から
自分を悔やむ日々を過ごしていた

なぜ あのような事をいってしまったのだろう
理人はそんな男ではないことはわかっている
不安は 何とかするから全部・・と
声で 振動で 鼓動で
耳から 頭の先から 胸の奥へと
全身で受け止めたその言葉

そんな理人が 考えなしの行動をするはずがない
1番信じていた自分が 
1番汚い言葉で傷つけてしまった

私はなんて子どもなの 
でもね どん底のマオさんを目の前にしたら
優しさから そう ただただ優しさから
傷ついている人を包み込んで
涙を拭いて胸に抱き締めて
一緒の時を過ごして・・

そんなこともあるかもしれないと 
過ってしまったんだよ あの夜のように

こんな自分は 理人とつきあう資格があるのだろうか

夜になると 自分の部屋で考え込み
朝になると 身支度を整え会社に向かう
仕事はもちろん きちんとこなす
こうやって繰り返していけば
いずれ 理人との幸せな日々も遠ざかった想い出となり
背筋を伸ばして颯爽と歩いていけるのだろうか
ずっと

 
4月 
也映子の会社も新入社員が5人 也映子は仕事を教える立場となった
ますます忙しく 遅くに帰宅して夕食をとると 
もう眠らなければならない時刻が迫ってくる
入浴と ゆっくりする時間は合わせて1時間ほど

それでもスマホをみては
理人の電話番号のページを開き
プロフの画像をみては閉じてため息をつく

理人くん このままでいいのかな
まだ 怒っているのかな
ん?怒ってた?
口調は落ち着いていたよね
でも 絶対に軽蔑してるよね

また 今日もそんなことを悶々と思いながら
眠りについた

新入社員もだいぶ慣れてきた4月中旬
也映子は担当の取引先に向かった
バスで10分ほどの場所
新入社員の1人を連れていた
「何も考えずに まず挨拶はきちんとしましょう
相手の目をみて お辞儀をきちんとして
背筋はまっすぐね 
あ 練習したから その通りでいいよ」
緊張しないように 新卒の男子社員に微笑んだ
(理人くんと同じ年か 理人くんも頑張ってるかな)

もうすぐ着く・・と 新入社員男子くん越しに
窓の外を見ると・・・

遅咲きの桜の下を歩く理人
その姿を見たのは 2ヶ月ぶりだった
(理人くん・・・)
同僚だろうか 同じようにスーツ姿の2、3人と歩いていた

(まずい 目が曇ってきた・・)
もうすぐ着くというのに ハンカチを取り出し
也映子は瞼の上を押さえた
「小暮さん?大丈夫ですか?」
「あ 大丈夫  ちょっとね 花粉症が・・外に出たからかな 目が痒くなって」
しどろもどろだったが 特に怪しまれず
也映子は深呼吸して 立ち上がった

                                    桜 桜 桜

理人は帰宅すると 部屋の電気も点けずに
スーツを脱ぎ ラフな部屋着に着替え
ベッドに横になった
夕食まであと30分はあるだろう
うとうとしてちょっと眠ってしまっても 声をかけてくれる家族がいる
自宅から通えるってありがたい
今日 出会った研修の仲間の数人は独り暮らしだ
自炊もしているというから大変だよな
そんなことを思ううちに 本当にうとうとしてきた

5分ほどたっただろうか
机の上のスマホが震えて光っている

7時過ぎかぁ 誰だ?
スマホを手に取ると 
画面は理人と也映子の写真
「もしもし・・・?」
手に取って応えた
声は聞こえないが もちろん也映子だろう
「もしもし・・・也映子さん?」

その時だった
加瀬家の前の通りを救急車がサイレンを鳴らして通っていった
そのサイレンがスマホから聞こえてきた
音は大きくなり そして
遠ざかっていった

「あなた  バカですか」
理人は答えないスマホに向かって言った
押し殺した吐息が1つ 耳に響いてきた

「そこにいて!・・・ 也映子さん」
転げそうな勢いで 理人は階下におり
「ちょっと 出てきます」
顔を出した芙美に伝え 玄関を出た

思えば バイオリン教室で会ったばかりの頃
自分の恋愛をからかったこと それを詫びるために
也映子は家までやってきた

自分のバイオリン教室最後の日にも
ビビって休もうとした自分を迎えにきた也映子

その場所に 今 也映子さんがいる
 
あの発表会の打ち上げの時のように
眼鏡をビショビショにしているに違いない 

理人は あの池のほとりにあるベンチを目指して走った

足を止めた10m先に
背中を丸めて俯く 愛する人がいる

荒い息を鎮めようと理人は大きく息を吸って吐き
胸に手を当てると 心臓の鼓動がやけに大きく感じた

一歩一歩ゆっくりと近づいて 
理人は也映子の隣に座った

「今 仕事先でね リハビリしてるおばあちゃん
歩行の回復のために通っているんだけど おしゃべり大好きなんだよ
最近 左手の小指を骨折しちゃって そちらもリハビリみてるんだけど」

理人は也映子の左手を両手で包んだ
「そのおばあちゃんが言うには
結ばれる人とは 左手の小指が赤い糸で結ばれて繋がっているんだって 自分の小指を見ながらそんな話をするって 可愛いおばあちゃんだなって思って」
4月半ばの夜は 風も冷たく 
也映子の手は冷えきっていた

「中国の伝説でね 赤い縄で足首に結ばれているとか
手首だとか 説があるみたいだけど
日本では 左手の小指ってことになってるんだって」
理人は也映子の手を開いて 
自分の左手の小指を 也映子の同じ指に絡めた
「理人くん・・・」
言いたいことがたくさんあって
話したいことも山ほどあるのに
何を話せばいいのかわからない
「理人くん ごめんね」
やっと それだけ言葉にすると 
也映子の溢れた涙がぽたっと理人の手に落ちた
左手は繋いだまま
右手で也映子の頭を自分の肩に寄せ 
理人は何度も優しく撫でた

「也映子さん 何も言わなくていいよ
きっと也映子さん自身が自分を責め続けたんでしょ」

理人もそのあとは何も語らず 
ただ目の前の池の水面を眺めていた

也映子が隣にいること
細やかだけど 理人にとっては一番の幸せ
その喜びをかみしめていた

                やや欠け月 終 わ り三日月

コブクロ 赤い糸
コブクロの映像を
①で載せました

ガッキーバージョンを・・・


書き始めの不安のまま 終わってしまった感

ダメだな・・
纏まらずスミマセン

ちょっと修行の旅に出ます
って そんな修行ないし 
このご時世 旅には出られないし
そもそも自分で素人とか 言ってるくせに
なんと自虐的
えーん
今回も最後まで
ありがとうございました🙇‍♀️