「今日 何の日だっけ」
ガラス越しに通りを行く人たちを眺めながら理人は尋ねた
待ち合わせした行きつけのカフェ 
混みあう日曜日には窓ぎわの席で並んで座ることもしばしばある 

「遅刻だ」小走りにやってきた理人が 
それでも先に着いてオーダーを済ませると
目の前を也映子が手を振って通りすぎ
その数十秒後には 理人の横に座ったのだった

「ごめんごめん 明日 急遽 出先に行ってからの仕事になっちゃって 電話してた」
それでも歩きながら済ませてきたのだろう 
いいよ別に・・と理人はメニューを也映子の前に置いた 也映子はココアをオーダーした

「也映子さん 俺もココア頼んだ」
「やっぱり!外 寒いから甘いの飲みたくなるよね」
手帳を取り出し 也映子は明日の日付のスペースに
行き先と約束の時刻 担当者の名前をメモした
理人は覗き見をするつもりはなかったが
目に入ってしまった今日のスペース

絵文字のようなプレゼントの箱のイラスト🎁
なにげに聞いたつもりだった
「今日 何の日だっけ?」
メモの手が止まり 也映子は手元の左側を見た
「あ あぁ これ ・・」
初めて気がついたような 悪びれない声
「智史の誕生日だ 今日」


そういうことか・・・
也映子とこうやって付き合っている今の理人は
特に智史のことを気にしていなかったのは
別に強がりでもない

婚約者だったのも知っているし
まだ付き合う前から ちょくちょく登場していた名前
ほっとけないでしょという也映子にイラついたこともあったが
今年の也映子と出かけた初詣で 智史とばったり出くわした時にも
一緒にそば屋に入って食事している

今さら 何も心配はしていない
ただ 「也映子 寒がりだから」と気遣いからの智史の言葉に ザワッとして独占欲が働いたのも事実
どうしようもない嫉妬は 自分で何とかしなければならない  
そんな思いが也映子を強く求めてしまうこともあり
ヤキモチやきなのは理人もよくわかっていた

智史の名前を出さなくても 友達でも イトコでもいいから答えてくれれぱ それ以上追及しないし
そもそも消しておくか
・・・・ 手帳買い替えろよ・・

理人はそこまで器が小さい訳ではない
何が腹立つかというと これを残しておくことを何とも思わない也映子の性格だ
よく言えば大らか 理人が救われたのもそんな也映子だからなのは間違いない 
でも もしかしたら気にするかもしれないなというところを放っておく所は 直してほしい 
そして 全く智史に感情がないことも 普段の也映子を見ていればわかってる理人だったが
思わず口から出てしまった

「智史さんにプレゼント?」
手帳を見ていた也映子の目が 理人の横顔を捉えた
理人は道行く人々を眺めている
「え?えぇ?あげるはずないじゃん・・」
予想通りの答えだ
「だったら なぜ残しておくの?」
軽い痴話ゲンカ 2人のスパイスのようなもの
「そんな 気にすることでもないよ あ じゃあ・・」
也映子はプレゼントのイラストを★で塗りつぶした

「星!」
「使いどころ 違うよ」
「なに 何で怒ってるの 智史とは何の関係もないし もう消したんだからいいじゃない」
わかってる事だ 
そして 也映子はこれからもずっとこうなんだろう

「うん まぁ いいけど でもさ そういうの最初から消しておいてね」
それで済むはずだった
2つ一緒にテーブルに並んだココア
理人は両手で持って甘くて暖かい幸せを一口味わった時だった
「理人くんだってさ」
也映子が吐き出し始めたことで まさかこのようなことになるとは・・・

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