アウトレットに着いた
                   
理人は 特に欲しいというものはなかったが 自由に見て歩けるようにと計らい 30分後に 也映子の目当ての店内で待ち合わせることにした
その間 理人は仕事で履けるようスポーツソックスや ちょうど欲しかった帽子をみつけた 
片手にショッパーを下げ買ったばかりの帽子をかぶり
理人は 也映子の指定の店に向かった


5分ほど見回って 待ったが 也映子の姿はない
(まだ 他の店見てるのかな? トイレ行ってるとか?)
レディース専門の店なので アウトレットとはいっても 1人では居心地が悪かった

一旦出ようかと思った時に 奥の試着室のカーテンが開いた
といっても 也映子が顔だけ出して 招き猫のように 手だけ動かしている

そばに行くと 也映子はやっとカーテンを全部開けた
「これ どうかなぁ」
理人は ちょっと驚き 少し離れて 也映子を眺めた
いつものスカートは 長めの丈で ゆったりめ
細身の也映子が穿くからボリュームあるようには見えないが ゆとりのあるタイプが多い
しかし 目の前の也映子は いつもと違った
体の線が はっきりと出るタイトなスカート
無機質なブラックが逆に艶かしい

「理人くんは どう思う?」
今度は1回転 後ろ裾のスリットは決して深くはない
「なんか いつもの也映子さんじゃないみたい」
ちょっと色っぽいんじゃない?とは 口には出さず・・
「仕事 しにくくないの?」
也映子が風を含みなから歩くスカートのイメージからは程遠く 動きにくそうに感じた
「うん そうでもないよ 別に作業系やるわけじゃないし   見た目 仕事できそうでしょ?この人に任せられるって見える?」
そう言われれば 確かにそうか・・理人が答えに迷っていると 店員が近づいてきた
「お仕事でしたら お勧めのお品ですよ そこまでタイト過ぎず 後ろのスリットも10cmもありませんので 
見えてしまう心配もなく動けますよ」
也映子は そうですよね!という納得の顔をしていた
「理人くん 私 決めた これにする」
理人は反対の理由もなく黙っていると じゃ!と也映子はカーテンを閉めた

予定の1時間まではかからず 車はアウトレットを後にした
「あ 理人くんも帽子買ったんだね 似合うね」
キャップを深くかぶった理人は学生にも見えるくらい若々しかった
「ちょうど探してたから 俺も満足」
「私も!しかも半額で買えたんだよ!満足2倍!!」
也映子は両手でVサインを作って顔の横で振って喜んでいた それじゃ4倍だろと言いたいのを抑え
「よかったね 希望通りの物が見つかって・・でも 」
「ん?なに?」
「できたら 週に1回くらいにしてね」

次の目的地は ランチの予定のカジュアルなレストラン
そこを目指して 理人は軽快にハンドルを握っていた
「え?なんでなんで?」
「だって 也映子さんぽくないから 大人っぽいというか」・・理人はあとの言葉を飲み込んだ
「あー 確かに 今までもタイトスカート穿いてたこともあるけど もう少しゆとりがあったかな」

何か思い出すように 也映子が続けた
「この前の取引先の案内の人が こんな感じのを穿いてて 動きもスマートでカッコよかったんだよね」
也映子はスカートの入ったショッパーを膝の上に置いたままだった
「也映子さん 影響受けすぎ」
そんな理由かと理人は也映子の手元を見た
「也映子さん この前も母さんの着てたブラウス 可愛いって 似たようなの買ったでしょ」
「あー 買ったっけねぇ うん 買った 一回着ただけだ」
「ほら ・・・人の影響受けて買っても 着なかったりして もったいないよ」
「いずれ着るから大丈夫だよ お母さんだって似合うって言ってくれてたじゃん」
也映子はそのつもりはないだろうが 理人の母 敏美のことを意識しているように 理人には見えた
「母さんと仲良いのはいいけどさ なんか 張り合ってる?ライバル?」
「な なに言ってるの んな訳ないでしょ 理人くんが うちのお父さんと近づきたいってのと 一緒だよ」
とかく 相手の親 特に同性の親に対しては意識の度合いが違うのかもしれない
「俺さぁ 最近リハビリ始まった患者さんで 鉄道ファンの方がいて・・結構教えてもらってるんだよね 」
「へぇ・・きっと お父さん喜ぶよ 理人くんと話できたら・・ お母さんはね 最初からお気に入りだから」
「也映子さんが熱出て 俺が家まで行っちゃった時か
あれ初対面だったもんなぁ」
「お母さんさぁ あれから少し経って 加瀬さんってイケメンだよねぇって でも あの切羽詰まった顔がたまらなかったって 胸の奥がギュギュッと何かに掴まれたようなって お父さんが何をバカなこと言ってるんだって・・あ! だから理人くんのこと警戒してたのかな」
「えー?何それ」
「嘘だよ お父さんだっていい子だって言ってたよ」
今となっては懐かしいあの頃


「お母さんも 何とでも言って 例えば寝込んでるとか 理人くんを追い返すこともできたけど 思わず家にあげちゃったって・・ こっちは あの格好で 一番見られたくなかった状態だったよ」

「おでこに熱さまシート貼ってたし」
「みなまで言うな」
「 でろーんとしたカッコだったよね」
「言うなと言っておるが・・しかも理人くん いつもと変わらないって言ってたくせに」
「ははっ ・・俺 家にいる也映子さん 好きだよ 自然体っていうか 部屋着も好きだよ」
「でろーんって言ったじゃん」
「だって 何て言うの 長いの着てたなぁって・・でも
可愛いかったな」

口元がゆるゆるになって にやけている理人の左頬を
也映子は軽くつねった
「ほんとかー?どの口が言ってる?」
「危ないよぉ 」真っ直ぐな道だが 理人はよそ見せずハンドルを握っていた
「ほんとだよ ずっとそのままの也映子さんでいて」
寝起きの顔を見るのも 飾らない部屋着を見るのも
何十年たっても 自分だけ知ってる也映子さんでいてほしいんだ
「着いたよ いい感じだね」
「あ ほんと 雰囲気いい」
「ここは ドクロマークつかないようにしようね!」
目と目が合って 1秒のチュッ
車を降りて 店に向かった

                                 完✋

最後にコブクロのDiaryの歌詞 後半

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