第2話チューリップ

地図帳のドクロマークは
喧嘩した場所
約3ヶ月前に書き込んだのは 理人の勤務先の病院

「でもさぁ 病院で喧嘩した訳じゃないよね」
左折のカーブでハンドルを回しながら 理人が疑問のひとこと
「いいのさ だって事件は現場で起きてるんですよ!お兄さん」
「也映子さん 事件って・・あれ喧嘩でもないし」
確かに喧嘩というよりは 也映子のヤキモチに過ぎなかった 理人も一瞬 語調が強くなったが 也映子だってよくわかっているのにコントロールできないほど気持ちが揺れているのだ それを静めてあげたかった 

也映子は也映子で
理人がリハビリでお世話しているバレー部の女子高生が 理人のことを好きなんじゃないの?という疑念は晴れずにいた
「その後 マナミさんは具合どうだったの?」
誰が理人を好きになっても 也映子は理人を信じてるのは間違いないが 気にならないと言ったら嘘だ

「うん・・1ヶ月くらい通って 手も拳骨を作れる位までになったから そこでリハビリからも卒業したよ 夏休みは勉強に燃えるって笑ってた」
(理人くんのことも 卒業できたか・・あ~~ほんと罪なヤツだよね 本人の自覚が無いところが何ともねぇ)
也映子は地図の病院のドクロマークを指でくるくるとなぞった
「也映子さんさぁ 何でそんなマークつけてるの?喧嘩した場所なんて 記さなくていいじゃん」
「いいのいいの だって後から思えば喧嘩も懐かしい想い出でしょ 」
「也映子さん ホント面白いよね で1番最初のマークが・・」
「そ!理人くん家の近くの公園」

幸恵と也映子が 理人の初恋を茶化していた所に 本人が現れるという気まずかったあれ!
後日 謝りにきた也映子だったが 更に理人を怒らせることになったあの公園


婚約破棄された者同士・・と眞於と自分のことを巡り合わせのご縁云々の話をした也映子に「本当にその彼氏のこと好きだった?!」と理人が怒りをぶつけたあの日
「ぶっとんだ人だと思ったよなぁ 家にやって来た時点で 何?て驚いたけど」
「覚えてるよ あなたバカですか って言ったよね」
喧嘩というより ろくに知りもしない同士の憤りのぶつけ合い 
それはショッピングモールでも 音楽教室でもカラオケルームでも  繰り広げられた
先ほどから同じページを開いたままの 也映子は思い出したように別の公園のドクロマークを指差した
「で こっちの公園での1番最新の理人くん・・」
「えー 今それ 言う?」

それは 先月のことだった

いつものように ドライブに出かけブームのかき氷を食べ暑さをしのいだ2人
「暑いけどさ やっぱりかき氷は こういう日に食べないとな」
「うん 皆にも分けてあげたいけど さすがにこれはお土産にできないね」
也映子の笑う口から 紫色に染まった舌が見え隠れする
「也映子さん ベロ すげーよ あ!」
「何?なに?」
「あれ お土産にしようよ」
理人の視線の先にはお土産用のかき氷シロップが並んでいた

加瀬家と小暮家にそれぞれシロップを買い 帰りがけに届けた 
「俺んとこは ちょっと遠回りになるから 今度でいいよ」という理人の言葉に甘え 小暮家だけ立ち寄った
夕食も済ませたので もうすぐ8時になる
「あら ありがと!」喜ぶ母の洋子 父の健治は合わせて一緒に笑って頷いたが すぐに読んでいた雑誌に目を落とした

「鉄道・・ですか?」
洋子の淹れてくれたコーヒーを啜って理人が尋ねた
「あぁ 理人くんは 電車に興味をもったことはなかったの?」
理人は小さい頃から 空 海 陸 それぞれの乗り物に興味はあったが 特にこれが!というものはなかった その中でも どれかと言われたら 車が好きだったかな・・そう思い出して伝えると 「そうか・・」と健治はページを捲った

「あれ お父さん 寂しかったのかな」
エンジンをかけながら理人が呟いた
「ん?あー あの鉄道の話?」
「俺が せめて電車好き!なくらいでもいいから 話が合えば嬉しかったかな」
「大丈夫だよ 気にしなくていいよ」
小暮家を後に 車は走り出した 
(ちょっと これからは鉄道関連のニュースとかは 注目してみようかな)

也映子の言うとおり 無理して鉄道ファンになることもないが 理人なりに健治と話を合わせたいと思った
「白鳥さんがね 鉄道好きだったんだよね・・」
そろそろ9時になりそうな頃 也映子は眠気を感じ始めたのか
両手を上に伸びをして何気なく白鳥の名を口にした

「鉄道好き だったんだ バイオリンお坊っちゃまじゃなくて・・」
理人は少し曇った窓を拭いてファンのスイッチを入れた
「あー バイオリンも習ってたのは本当だよ そんなの嘘つかないじゃん 鉄道好きは 自己紹介に書いてあっただけだよ どのくらい詳しいかは わからないよ」
「お父さん 残念だったな マニアなんだもんね」
「理人くん どうしたの 気にしすぎだよ」
也映子はそういうが 理人は気になっていたのは事実
今まで小暮家に行っても 洋子はあの通り 嬉しそうにかまってくれる 
お父さんは俺のこと 也映子さんの相手として 認めてくれているんだろうか 年下の頼りない子どもだと思ってるんじゃないだろうか
今までも たまに頭を掠めることだったので 余計にモヤモヤしてきた
黙っていた理人に 也映子が肩を叩いた
「だ・い・じょ・ぶだよ 
白鳥さん つきあう間もなくお断りしたじゃない
あの晩 理人くんに 新居リスト ちゃんと返してお断りしろって言われてさ」
「酔ってたもんねぇ 俺のバイト先まで来てさ
何か まんざらでもなかったんじゃないの?」
「えー?何が?」
「眼鏡かけてる姿がいいとか・・」

「ああ あれね 眼鏡がマイナスポイントかと思って オミカツパーティーにも 眼鏡とってコンタクトで臨んだけど ・・結局ダメ それに理人くんが 忘れ物したみたいって言うからさ」
「うん 言ったな・・」
「まさか 白鳥さんにも気に入られるなんてね フフッ」
也映子の甘い笑い声が耳を突く
あの夜の してやったり!の顔が理人は脳裏に甦ってきた 何だよ あの顔 俺に見せたあの顔は・・・

もうすぐ家に着くという手前には公園がある
誰一人いなくなった公園の 
車一台ない駐車場に理人は車を停めた
ぼんやり外を眺めていた也映子が理人を見ると同時に
既に自分のシートベルトを外した理人が
覆い被さるように也映子のシートベルトも外した
カチャッと音がして「これ 邪魔!」ベルトがシュルッと納まる音がした

「り 理人くん?」目の前に理人の顔がある
荒い息づかいが近づいてくる
也映子が理人の体の隙間から 手を伸ばそうとしたが 理人がその手首を掴んだ

唇を重ねてきた理人は 也映子の舌に自分の舌を絡ませ
激しく踊るように動かし それでもまだ離さない
也映子が空いている方の手で 理人の背中をノックするように叩いた
「理人くん 苦しい 激しすぎて 息ができないよ」
困ったような也映子の少し怯えた目を理人は眼鏡越しに見て 
「ラジャー! はい 息継ぎ終了」


今度はゆっくりと唇を合わせて理人の舌先はゆっくりと也映子の唇や舌をなぞるように伝っていった
痺れる感覚の中で 隙間から也映子がやっと声を出した
「理人くん 家に帰ろうよ・・」也映子はもちろん嫌な訳ではない でも こんな公園の駐車場で 大丈夫?
「家に帰ってさ・・」
「ヤダ!」
理人が横のレバーを引いて シートが倒れた
也映子の視線の先はフロントガラスの向こうの闇から 車の天井に変わった
もう抵抗する理由もなく 也映子は理人の背中に手を回した
                                   チュー
やれやれ 若さとは こういう勢いのことかと 也映子は半分あきれながらも 目を閉じたままだった
理人の汗がまぶたに落ちてきた
「白鳥さんとは 理人くんがヤキモチをやくようなことは 何もないよ 眼鏡のことなんて そこまで拘ることないじゃない」
わかってるでしょ?と也映子は目を開けて まだすぐそばにある理人の目をみつめた
「うん・・・・俺・・確かめたくなるの 
わかっていても 也映子さんを突き詰めて 征服したくなるっていうか
全部 自分のものにしたいんだよ」
「なんだ それ ガキだなぁ 大人の男はもっと余裕を持たなきゃ」
也映子の細い手が 理人の背中を叩く
「また ガキ扱いした」
近づいてきた唇の前に右手をかざして 也映子は左手で理人の頭をなでた
「帰って シャワー浴びよっ」

そう 也映子に負けず劣らず 理人はヤキモチやき
2人の喧嘩の原因は 半分は思い過ごしのヤキモチからだった

家を出て 小一時間
也映子が立ち寄りたかったアウトレットが視界に入ってきた
「あ あれあれ!よかった 気に入ったスカート 見つかるといいな」
「じゃあ 1時間くらいね 大丈夫?」
也映子は OK!と指で丸を作り 理人は駐車場に車を入れた

                        富士山つ  づ   く虹


コブクロ Diaryの歌詞にある『喧嘩した印のドクロマーク』その喧嘩話で 2回分
片寄ってしまってスミマセン
しかも 理人くんを暴走させてしまい 
不愉快になった方に お詫び申し上げますキョロキョロ

はい あとは このDiaryにのせたお話
爽やかにいかせていただきます
今回も お読みいただきまして
ありがとうございます🙇‍♂️

Diary 歌詞