ヒマワリハチ

「也映子さん 今日は何作るの?」
「内緒だよ できてからのお楽しみ」
そう ショッピングモールで 理人が専門書を探している間に 也映子は夕食の材料を買い揃えていた

家までの道 理人はやえこの手に持たれた買い物袋を 受け取りながら 一応訊いてみた

「そうか なんだろな 俺 手伝う?」
「いいよいいよ さっき買った本 早速読むんでしょ
理人くん ほんと勉強家だよね 
私なんかすっかり本読まないな・・って理人くん?」

也映子があいている片手で理人の二の腕あたりをパンチ!
「理人くん 聞いてた?」
「あ・・うん」どぎまぎする理人に也映子が口を尖らした

「違うよ あれ 見て!」
理人が斜め上の電線を指差した
「え!?何?」
「あそこに ちょうど5本 電線があるでしょ」
「あ あーなるほどね」
理人が左側を指差した
「ド・レ・ミ・ソ・ラ・ド・レー・レドシー」
「ド・ドーシラー シ・シーラソー」
也映子も後に続いた
「Someone to watch over me・・・」
「私を見ていてくれる人・・ハ長調バージョン」
也映子の機嫌は直っている

「あの日のあれは ズキューン だったよ」
「俺 あの時 もう也映子さんしか 見てなかったよ」

理人は あいている片方の手の5本指を 也映子の5本指に絡めて握った
レンガ道を歩いていく

理人は昼間のことを思い出していた

片付けをしていて 也映子の荷物の一番上に ちょっと古めのアルバムがあるのを見つけた
也映子は2回目の洗濯物を干しにベランダに出ている

(こういうのって 元カレとかの写真が出てきて・・っていうパターン?)
一番上にあるし 覗き見ってこともないだろう
気軽な気持ちでアルバムを開いた理人は 何が出てきても動じない自信があった

(今さらヤキモチもないよな)
也映子は洗濯物をちょっと背伸びして干している
風が也映子の髪をなびかせ 細いうなじが見えている
そのうなじに唇を優しく押し当てると 也映子はバイオリンの音色に酔いしれたときのような うっとりとした表情になる
その也映子さんを今は俺が独り占めしているんだ 
例え過去に何人の男が触れたとしても・・
鼻歌を歌う気分で 理人はアルバムのページをめくった

也映子さん いつでも楽しそうだな 旅先での写真や
サークルの仲間たちとの宴会の写真
ジョッキを持って満面の笑み
やっぱりビールかよ・・

そして一番最後のページに
やたら分厚いポケットがあった
桜の木の写真 人物の映っていないその1枚の下に
何枚か入っている 理人は少しざわっとした
取り出すと そこには 男の腕にぶら下がるように
腕を絡める也映子
桜の木もバックに映り 花びらがちらついている
どうやら男のもう片方の手で自撮りをしたらしい
やたらゴツ目な男の腕
ちょっとはしゃいでいる也映子の目
眼鏡をかけていない素の也映子の瞳を
理人はセツナイ思いで見て 目をそらした
あとの2枚は也映子と彼氏が1人でそれぞれ映ったもの
理人は3枚揃えて 元に戻した

何の文句もつけようのない 爽やかなスポーツマン
見なけりゃよかったかな・・・
理人がベランダに目をやると 
洗濯物を干し終えた也映子が部屋に戻るところで
こちらを見て笑っていた
「風が強いんだよー せっかく飛行機雲が綺麗だから
理人くんを呼ぼうと思ったのに すぐ消えちゃったよ」
「えー!?飛行機雲 見たかった!」
「綺麗だったよぉー ざ ん ね ん!」
理人はかごを持ったままの也映子の肩に後ろから腕をまわした
「今度 飛行機雲あったら それをバックに写真撮ろ」
「うん そだねー 撮ろう 他にもたくさん撮ろうよ」
「1万枚でも 10万枚でも・・」
「100万枚でもね!」
理人は思った
也映子のことだから あのゴツ目のスポーツマンとの
写真が とってあることすら おそらく忘れてる
もしかしたら 写真を撮ったことすら忘れているかも?

それはないか・・・也映子の肩をギュッと抱きしめ

「強いよ・・」振り向く也映子の唇をふさいで 
お・ れ ・だ ・け ・の ・や・ え・ こ・ さ・ ん

10秒のキスの間 呪文のように唱えて
理人は 也映子の唇を解放し かごを受け取った
「お手伝い」
「え?かごを片付けるだけの?」
「ダメ?」


「ダメー!今日の夕ごはん 作って!」
「え?まぁいいけど アジの3枚おろし」
「嘘 いいよ 私作るよ 理人くんは調べ物あるんだよね」
「実はそうなんだ 本も探しにいきたくて」
「じゃ 買い物いこっか」

昼間みたあの男の腕に絡み付く也映子の目が
脳裏に甦ってきたが 
しっかり握りあった 指と指は
互いの脈を感じて 何者も入り込める隙間はない
也映子との確かな絆
ありふれた毎日だけど 
ずっと共に笑いあっていたい 
ずっと ずっと

「也映子さん ここで写真撮ろ」 
いちょう並木のレンガ道で 理人はスマホを構えた

                                           イチョウ



外苑沿いのレンガ道ってどこだろうって調べたら
神宮外苑にはなく 皇居外苑ならレンガ道があるとのことでした

理人たちは都内に住んでいるわけではないので
ここは当てはまらないけど
そこは ちょっとスルーで・・・
この すぐ上の画像は
私の地元です
この通りは 秋はイチョウ並木が
もう少し西にいけば 桜並木が
彩りを添えてくれるのです