玄関ドアのチャイムが鳴り
タミが嬉しそうに入ってきた
「やえこちゃん お久しぶり 理人くん こんにちは!」
やえこの顔を見て そして理人を見た後に 
タミは頭を下げた
2人がここ北河家を訪れた初対面の日から
タミは理人のことがお気に入りだったのだ

理人とやえこが今度の日曜に来ることを幸恵から聞いたが タミは友達と映画の約束があった

いつもならそのあと何か食べながら おしゃべりするのだが
お客さんが来るから映画が終わったらすぐに帰ると友達にも了承を得ており 幸恵にお迎えを頼んでおいたのだった
1人で帰れないこともないが
2人を大好きなタミの気持ちもわかっていたので
幸恵は迎えにいってやったのだ

「タミちゃん また背のびた?あ!そうそう タミちゃんの中学って うちのバス停🚏🚌から3つ先で降りた所だよね」
やえこの相変わらずの質問攻めに クスッと笑い
「うん そう 」
「そうなんだ じゃ 今度帰りにでも 寄ってよ」
理人のラフな誘いに 社交辞令などという邪魔は脳に入らない
「ほんと?平日は部活の後じゃ遅いから 土曜か日曜の部活の後なら 寄れるかな・・ ホントにいいの?」
「あーいいなぁ 私も行ったことないんだよなー」
幸恵が軽く口を尖らす
「だってさーお邪魔かなぁって」
「やーだー幸恵さん そんなこと思ってたの?」
やえこが幸恵の背中をバシッ(やえこ照れる❕)

理人はくっくっと笑う
「じゃあ 幸恵さんは車で来てうちで待って タミちゃんが帰りに寄れば そのあと一緒に帰れるんじゃないかな
あ!でも 出かける事も多いから 連絡だけは入れてください」
「わぁ 楽しみ」
幸恵とタミが顔の前で手を組み 目をキラキラさせる
・・・と 一同が見たのが 
軽く微笑んで話を聞く由実子

すかさず やえこが
「お母さんもいらして下さいね」
「そうですよ 僕もその後の症状をきいて 勉強になりますから・・」
頷く理人
(また そんな理由付けして・・ ただ普通に 遊びに来て下さいでいいんだよ)
(わかってるよ つい口から出ちゃったんだよ)
目と目で語り合う理人とやえこ

「ありがとう 幸恵さんが1人で運転 寂しいっていうときは 付き合うわー」
由実子の言葉に みんな大笑いすると 幸恵が思い出したように
「そうそう 今日は 何か用事があったんでしょ」
改まって2人をじっと見た
「実は 今度俺たち 入籍だけでもしようって 式のことなどはまだまだ考えてないんですが」
「でー 幸恵さんに証人をお願いしたいんですよ」
やえこはバッグから書類入れを出し
1枚の用紙を取り出した
「ここの証人の欄に サインして頂いていいですか?」
理人は綺麗なブルーのボールペンを幸恵に差し出した
「まぁ 可愛いねぇ 今はこんな婚姻届があるのね わかった 今までで1番 心を込めて書くね😆」
「幸恵さん 自分の婚姻届の時より丁寧に書くの?」
「え?えー?そんな昔 忘れちゃった」
幸恵がとぼけると タミが見て尋ねた
「お母さん どんな婚姻届だったの?」
「普通のよー 白い紙の・・」
姿勢を正して 幸恵はシーっと指を立て 集中して書き始めた
「はー 緊張した あ!これ写真撮っておいていい?
大事に残しておくね」
「そうか じゃあ やえこちゃんは 加瀬也映子になるんだぁおねがい」タミがはしゃいでいる
「お母さん お母さんはお父さんのどこを好きになったの?」
「え!?」幸恵はドギマギしてみんなの顔をうかがった
「お母さんがお父さんを好きになった時のこと 知りたい」
中学生になり 以前のような反抗期ほどのことはないが
親のことなど関心がないかと思っていた幸恵はタミをまじまじと見た
「私も聞きたいなー!」
やえこの言葉に理人も同意の眼差し
「えー恥ずかしいな」
と言いながらも 幸恵はひと昔以上前のことを話し始めた
                                         コアラ
仕事帰りの駅で
突然の雨に幸恵は困っていた🌧️
傘をもっていないため 
自分が濡れてしまうのも勿論だが
仕事での大切な書類を持っている
手持ちのバッグは小さくてとても入らない
傘があれば書類の入った袋を胸に抱えていけば何とか守れる
駅ビルに戻り 傘を買うか 頑丈なケースを買うか タクシーに乗るか 
雨を恨めしそうに眺めながら 立ちすくんでいた所
横から傘が現れた🌂
はっと 持ち主を見ると 
「お困りのようなので どうぞ!」
「え!見ず知らずの方にそんな・・私 傘 買ってきます」
1本しかないのは見てわかる 折り畳み傘を持っている様子もない
「僕 そこでバスに乗っていけば バス停降りて すぐに家なんで 帰ればすぐお風呂に入るから 心配ないですよ」
それでも 借りた傘を もらってしまうわけにはいかないし やはり自分で買おう
そう思った幸恵だが  はいっと傘を渡すと その男性はバス停まで走り 🚎バスに乗ってしまった
渡された傘はかなり大きく大切な書類袋も幸恵も濡れることなく帰宅できた
借りた傘を どうしようと
かといって 毎日持ち歩くには荷物になる しかもかなり大きめの長い傘

行動パターンは曜日で違うことがあるとすれば
言い換えれば 同じ曜日なら
もしかしたら同じ時刻に あの方は現れるかも
幸恵の予想は当たった
それでも15分ほど後ではあったが
眼鏡をかけた大柄の男性が駅の階段を下りてきたのだ
男性は 幸恵の挨拶に少し驚きながらも
1週間前の雨の日のことを思い出した
「今日は 傘を持っていないんです よろしければ 日時を指定していただければ 今度持ってきます」
そんなきっかけがあり
幸恵は弘章と付き合うようになり
結婚に至ったのだった
                                         コアラ
「へぇ お父さん優しい❗」
タミは嬉しそうだった
「しかも そのあと この家にお邪魔するようになったけど 決してバス停からすぐ ではないでしょ」
お父さんは そんな優しさを持っている人なんだよね 

でも その優しさを 別の女性にも見せていたんだ その事実は やはり幸恵にとって深い傷みとなり 未だに癒えていない
「旦那さん 幸恵さんにひとめぼれだったんじゃないんですかぁ?」
やえこが ちょっとからかったが でもきっとそうなんだろうと思った
サインしてもらった婚姻届をしまって
小一時間おしゃべりをして 
理人とやえこは北河家を出た
🏘️
「ここで理人くん いいこと言ったんだよねぇ」
「あぁ あの日かぁ」

「幸恵さんが泣いちゃって でも 辛くても泣いてはダメですよって 楽しくしてればこっちの勝ちだって」
バス停までの道を 思い出しながら歩く
「私さぁ あの時 何か複雑だったよぉ」
やえこから手を繋いできて 理人の横顔を見た
「え?なんで?」
やえこの方を向き キョトンとする理人
3人で練習して 目標の発表会に出て(散々だったけど)
一緒に練習しようって 前を向いて足並み揃えて
同じ方向に歩き始められたと思っていた所に
お母さんのプチ意地悪に耐えながらも本気で悩む幸恵
その幸恵との距離を縮めて 涙をふいて笑顔になれる労いの言葉をかける理人
2人とも 辛い現実を味わいながらも 前に一歩進もうとしているように見えたのだろう
それがやえこには取り残されている感覚だった
そんな思いを話すと 理人は
「その日はそうだったかもしれないけど」
繋いでいる手をぎゅっと握った
「俺がどん底に落ちたら どん底まで一緒に落ちてくれたり やえこさんが胸が苦しくて救いの手を求めていたら 幸恵さんが一緒に泣いて抱き締めてくれたり 
まおさんだって 誰かを救ったり 誰かがまおさんを救ったり」
そう 人は思ったより強いし
思ったより弱いし
支えあっていく生き物
理人とやえこは 交互に言って歩く
「に」「ん」「げ」「ん」「あ」「い」
「ちょっと気恥ずかしいね」
「そお?」
バス停が見えてきた 乗るバスが横をすぎてゆく
「うわ!」
「まってー!」
2人は繋いでいた手を離し 全速力で走ってゆく

                             ニコニコお   わ   りニコニコ

照れタミちゃんの話チュー

今日 久しぶりにやえこちゃんと理人くんに会って
2人とも幸せいっぱいという感じで
会えてよかったです
理人くんはやっぱりカッコよくて
優しくて やえこちゃんが羨ましいけど
でもお兄さんみたいな感じでやきもちじゃないですよ

幼稚園のころ 好きかな?と思った男の子はいたけど
本当に好き💕って思うのが恋なら初恋は理人くんかなぁ 小学のクラスでも あんなにカッコいい人はいなかったです
中学は女子校なので 学校にはチャンスはないけど
今 バス通学で一緒になる男の子が気になっています
背が高くて やっぱり理人くんに似てるかな

あと今日はお父さんのこと 聞けてよかったな
普段はそんな話しないです
でも 今日 やえこちゃんと理人くんを見ていたら
結婚かぁ お母さんたちはどんなだったのかな
今より仲良しだったのかなって ふと思って
つい聞いちゃいました
ちょっとお父さん 見直しちゃった
顔見たら 思い出しそうです これからも