第四章 あいの風とやま鉄道に乗って

 

         一

 

 それから列車は堺川を渡り、日本海沿いを少し行くと越中宮崎駅に着いた。ブログを見ていた里志が、

「越中宮崎駅メロは、中森明菜の原始、女は太陽だっただって」

「そうか。富山県からは太陽の付く歌なのね。それにしても最初の駅だから、原始にしたのかしらね」

 と言った時に列車は、越中宮崎駅を出発した。マップを見ていた里志が、

「あれ、海岸の名前が宮崎・堺海岸だって。何となく九州の宮崎を思い出すよね」

「里志さん。次の泊駅メロは、アストロノウツの太陽の彼方に、よ。そして入善駅メロが、エミー・ジャクソンの涙の太陽だわ。私もすっかり南国ムードになってきたわ」

 と言っているうちに列車は内陸に入り、日本海は見えなくなった。そして列車の右手には田圃が、左手には北陸自動車道が見えて来た。泊高校を左手に望みながら列車は、ゆっくりと泊駅に着いた。

 

 列車が泊駅に停まると二人は列車を降りて、同じホームで待っているあいの風とやま鉄道の列車に乗った。待ち合わせ時間が二分しかないので、二人が左座席に腰掛けると、すぐに列車は発車した。里志がやれやれといった表情で言った。

「同じ線路なのに、第三セクターに運営会社が変わったため車両も違っている。少し煩わしい面もあるが気分転換にもなるから、これはこれでいいね。座席も左側に変更できたし」

「そうか。そういう効果もあるわね。富山駅に近付く頃には、左座席から北陸新幹線の高架が見えるわ。なんちゃって」

 と言ったので里志は、

「うわ~、これは上手くやられたな。それはそうと、今日行ったヒスイは良かったな」

「あら、里志さん、早速、仕返しね。ところで妙高はねうまって何?」

「ネットで調べたら、残雪が作る馬や牛の形をしたものだって」

「あら、私は麻雀のハネ満かと思ったわ」

「参ったな、由美子さんから麻雀用語が出るとは思わなかったよ」

「これもネットで知ったのよ。叱咤激励だわ」

 と言って由美子が笑った。二人がダジャレを言っているうちに、列車は入善駅に着いた。

 

 列車が入善駅を出発すると、ブログを見ていた由美子が、

「次の西入善駅メロは、入善駅メロが涙の太陽なので、橋幸夫の恋と涙の太陽だって。面白いわね」

 と言うと今度はネットで、あいの風とやま鉄道の記事を読んでいた里志が、

「駅女子とめぐる沿線十九駅と周辺ガイド、駅からプチ旅コースという記事はいいね。沿線の紹介と記事を書いた女性の写真も載っているよ」

「まあ、そうなの。私も見ようかしら。今日はとりあえず富山駅まで見ることにしよう」

 と言って由美子もスマホで、あいの風とやま鉄道を検索した。そして二人とも同じ記事を読んでいるうちに、列車は西入善時駅に着いた。

 

 列車はすぐ西入善時駅を出発したが、二人は相変わらず夢中になってブログの記事を読んでいた。列車が次の生地駅(いくじえき)に差し掛かると由美子が、

「あら、もう生地駅だわ。ブログの記事を読んでいたら、見逃すところだったわ。生地駅メロは、リップ・スライムの太陽とビキニだって。里志さん、この歌、知っていますか?」

「いや、知らないね。聴けば思い出すかもしれないが。魚津駅で降りるからその時に聴こうか」

 と言った時に、列車は生地駅に着いた。

 

 列車が生地駅を出発すると次は黒部駅である。早速、由美子が訊いた。

「里志さん、黒部駅メロは、映画の『黒部の太陽』だって」

「駅メロとしては、相応しくないかもしれないが、『黒部の太陽』はぴったしだね。確か映画館で観たことがある。何しろ三船敏郎と石原裕次郎の共演だから」

「そうか。私が観たのは七年前のTVドラマだったかしら。香取慎吾が出ていたような気がするわ」

 と言って由美子は、スマホで『黒部の太陽』を検索した。すると里志もスマホで『黒部の太陽』を検索した。美葉はTVドラマを、里志は映画のほうの記事を読んでいた。記事を読み終った時に、列車は黒部駅に着いた。

 

 列車が黒部駅を出発すると由美子は、

「次の魚津駅で降りるから、今度はあいの風とやま鉄道プチ旅のブログを読まなくちゃ」

「そうだね、由美子さん。『黒部の太陽』の記事や駅メロのブログ、そしてプチ旅のブログと忙しいね」

 里志は笑いながら言って、魚津駅メロのブログを検索した。

「魚津駅メロは、TVドラマの「太陽にほえろ!」だって。石原裕次郎のドラマが並びましたね」

 その後、二人はマップで魚津駅周辺を検索していた。

 

          二

 

 列車が十七時五十二分に魚津駅に着くと、二人は列車を降りた。そして駅舎を出てから、日本海にある蜃気楼展望地まで歩いて行った。今日は晴れており、蜃気楼が見えるかもしれないと思い、二人は期待を膨らませていた。が、蜃気楼が現れるのは十一時から十六時頃らしい。今はもう十八時を過ぎているから、蜃気楼は見ることができない。

 海岸道路は経田漁港からミラージュランドまで、“しんきろうロード”と呼ばれており、蜃気楼を見るためのスポットが、あちこちにある。二人はスポットにあるベンチに腰掛けると由美子が、

「いいわね、里志さん。蜃気楼が見られなくても、観光客がたくさん来ているわ」

「魚津駅の次の列車は十九時九分だから、夕日が沈むのを見てから駅に戻ろう」

 と言った。その後、二人は魚津駅に戻ってから、富山駅までの乗車券を買った。

 

 二人はプラットホームに入って行き、三分ほど待っていると、金沢駅行きの“あいの風ライナー四号”が到着した。二人は列車に乗り、左座席に腰掛けた。列車が魚津駅を出発すると里志は、

「次の東滑川駅は停まらないね、滑川駅に停まると次の停車駅は富山駅だ」

 と言って、駅メロのブログを読み始めた。由美子は時刻表を開くと、

「里志さん。富山駅に着くのが午後七時二十八分だわ。それじゃ、先に駅前のビジネスホテルにチェックインしてから、レストランで夕食にしましょ」

「うん、そうしよう。それで東滑川駅メロは、ルルのいつも心に太陽をで、滑川駅メロが、にしきのあきらの空に太陽がある限りだって。二曲とも曲名が長いけど、何か夢があって楽しいよね」

「そう。私はいつも心に太陽をの歌は知らないけど、空に太陽がある限りは知っているわ」

「自分は二曲とも知っている。でも、『いつもこころに太陽を』が映画の主題歌だったとは、ブログで初めて知ったよ」

 その後、列車は東滑川駅を通過して、十九時十四分に滑川駅に着いた。黒部駅と魚津駅、そして滑川駅は共に黒部市と魚津市、そして滑川市の停車駅である。したがって泊駅から富山駅の間は、比較的列車が多く走っているようだ。北陸新幹線が開通する前は、特急列車はこの三駅に停車していたことだと思う。

 

 列車が滑川駅を出発すると、次の停車駅は富山駅である。今度は駅メロを見ていた由美子が、

「里志さん。水橋駅メロは、モーニング娘の笑顔の君は太陽で、東富山駅メロは、AKB48の僕の太陽、そして富山駅メロが、安室奈美恵の太陽のSEASONよ。三曲とも女性で、みんなヒットした歌ばかりだわ」

「そうだね。いままではどちらかというと、外国の歌や歌謡曲でも昔の歌が多かったけど、

ようやく若い人向きの歌の登場ということかな。自分は安室奈美恵の太陽のSEASONしか知らないな」

「あら、里志さん、駄目ね。私は三曲とも知っているわ」

「よし、それじゃ、今夜はビジネスホテルでYOU TEBEを聴こう」

 などと言っているうちに、列車は富山駅に着いた。二人は列車を降りて富山駅南口に行った。それから富山駅前のビジネスホテルにチェックインしたのは、午後七時四十分頃だった。

 

          三

 

 旅行に出かけてから四日目の朝、今日も朝から五月晴れの良い天気だった。二人は七時半にビジネスホテルをチェックアウトして、富山城跡公園まで歩いて行くことにした。途中喫茶店に入り、コーヒーとサンドイッチのモーニングセットを注文した。それから喫茶店を出て富山城跡公園に行き、富山城の周りを散策した。すでに富山城跡公園には多くの人が散歩に来ていた。里志が腕時計を見ながら、

「由美子さん。富山城は九時に開城だから、そろそろ行こうか」

「そうね。富山城のあとは、富山市役所展望塔に行くのね。私は、富山に来たのは初めてなので楽しみだわ」

 由美子が言ったので、二人は富山城入口に行った。窓口で入場券(大人二百十円)を買い、富山城の中に入って行った。まず二人は、富山の歴史博物館を見学した。見学が終わると階段を上り、四階の天守展望台に行った。展望台に着くと、城跡公園、お濠、富山地方鉄道市電、そしてこれから行く富山市役所展望塔も良く見えた。

 城はと言うと、高い山に建てられている場合が多く、眺望も素敵である。それに比べて富山城は、平地ではあるが広い公園とお濠、川に挟まれており、周りに高い建物も少なく、天守展望台からの眺望は、それらの城と遜色ないように見えた。

 富山城を見学後、二人は歩いて富山市役所に行った。十分ほどで着くと、二人は市役所にある専用エレベーターに乗って、高さ七十メートルの展望塔に昇った。展望塔には多くの観光客が来ていた。何しろ無料で富山市の全貌が、そして今日は良く晴れているので、南方には立山連峰、西方には神通川と神通大橋、その先には能登半島も霞んで見えた。さっき見てきた富山城はここからだと小さく見え、富山駅の二階には新幹線の車両も見えた。その先には高さ百十一メートルのインテック本社ビルも見えた。展望塔をひと回りしたところで、下りのエレベーターが来た。二人はほかの観光客と一緒にエレベーターに乗った。市役所の一階に着くと、二人は富山駅に向かって歩き出した。

 

 富山駅に着くと、二人はあいの風とやま鉄道乗り場に行った。呉羽駅までの乗車券を買って、プラットホームに入って行った。五分ほど待っていると、十時四十七分発の金沢駅行きの列車が来た。二人は列車に乗り、北陸新幹線が見える左座席に腰掛けた。通勤時間を過ぎていたので列車は空いていた。列車が富山駅を出発すると由美子が、

「富山城と富山市役所展望塔は良かったわね。特に富山市役所展望塔からの眺望は素敵だったわ。富山平野は意外と広いんだもの。ところで里志さん、早速だけど次の呉羽駅メロは、スパイダーズの太陽の翼だって。これから行く姉倉比売神社(あねくらひめじんじゃ)は、姉倉駅から歩いて三分よ」

「すると次に呉羽駅を出発する列車は何時かな」

 と言って、里志はポケットからスマホを取り出した。あいの風とやま鉄道の時刻表を見ながら、

「この列車が呉羽駅に着くのが十時五十一分で、次の列車は十一時二十六分発だ。三十五分あるから、姉倉比売神社に行って来よう」

 と言っている間に、列車は呉羽駅に着いた。

 

 二人は急いで列車を降り、呉羽駅をあとにした。駅前の道路を真直ぐに進み、道路を渡り少し歩いたところで左折し、マップを便りに神社の参道に来た。そこから鳥居を潜り、少し歩いたところで姉倉比売神社に着いた。マップでも分かるように、緑の木々に囲まれており、かなり広い。二人は参拝してから元来た道を戻り、呉羽駅には十一時十五分頃に着いた。

 今度は小杉駅までの乗車券を買って、プラットホームに入って行った。列車を待つこと、八分くらいで列車が来た。二人は列車に乗り右座席に腰掛けた。列車が発車するとまた由美子が、

「里志さん。次の小杉駅メロは、寺内タケシとバニーズの太陽野郎よ。この歌は夏木洋介主演のTVドラマ主題歌だということ知っている?」

「もちろん、知っているよ。新潟で働いていた時に、毎週欠かさず見ていたよ」

「小杉駅には十一時三十一分に着くから、昼食を摂るのは十社大神(じっしゃおおかみ)を見学してからだわ」

「そう。そして小杉駅から高岡駅行きの列車は、十二時四十一分発だね」

「はい、良くできました。里志さん、完璧だわ」

 などと言っているうちに、列車は小杉駅に着いた。

 

 二人は列車を降りてから小杉駅舎を出た。駅前でマップを開いて十社大神を検索した。その結果、徒歩でも十五分くらいで行けそうなので、二人は交通量の少ない細い道を歩いて行った。十社大神には南側の小道から入り、駐車場の脇を通りぬけ、少し右に曲がったところに神社があった。その神社を正面から見た二人は静かな木立の中に、毅然として建っている神社に、思わずエールを送った。神社の屋根には、飾り板が取り付けられているのだ。二人は石段を上がり、厳かな気分で参拝した。参拝が終わると由美子が、

「里志さん。この神社に来て良かったわね。横浜じゃ、屋根に飾り板がある神社には、中々お目にかからないもの」

「そうだね。よし、列車に乗ったら、神社に着ける飾り板を検索しよう」

 その後、二人は神社の北側から道路に出て小杉駅に向かった。途中にあるレストランに入り、二人はハンバーグランチをいただいた。里志が支払いを済ませ、小杉駅に戻って来たのは十二時半頃だった。

 

          四

 

 二人は高岡駅までの乗車券を買って、プラットホームに入って行った。待つこと七分くらいで列車が来た。二人は列車に乗り、新幹線が見える右座席に腰掛けた。列車が小杉駅を出発すると由美子が、

「里志さん。次の越中大門駅メロは、ジャニーズの太陽のあいつだって」

「えっ! そうなの。太陽のあいつは、もちろん知っているよ。まさに青春を謳歌する歌だったね」

「そう。そして高岡駅メロは、その青春を代表するヒット曲、太陽がくれた季節を歌った青い三角定規よ」

「おや、由美子さん。呉羽駅メロから四曲も、ブログを見ないで言えるとは凄いね。それにしても、自分が好きな歌が四曲も並ぶなんて。今日はいいことがありそうだ」

 と言って、里志はポケットからスマホを取り出して、神社の屋根に着ける飾り板を検索した。由美子もバッグからスマホを取り出して、とやま鉄道プチ旅の記事を読み始めた。

越中大門駅に差し掛かると、新幹線の高架が左手に見えたので里志が、

「おや、いつの間にか新幹線が左側になっている。それにしても呉羽駅を過ぎてからは、田圃ばかりだな」

「それじゃ、私はマップを見ているわ。北陸新幹線とあいの風とやま鉄道の停車駅、そして富山平野の様子が分かるもの」

 と言った時に、列車が越中大門駅に着いた。越中大門駅を出発すると、三分ほどで高岡駅に到着である。二人はスマホをしまって、窓の外を見ることにした。列車は定刻の十二時四十八分に高岡駅に着いた。

 

 列車を降りた二人は、マップを見ながら瑞龍寺まで歩くこと、約十五分で総門の前に着いた。総門は国の重要文化財とあって、それだけで威厳を感じてしまう。二人は総門を潜り、伽藍の中に入って行った。正面には国宝二重門の山門がある。そして山門を潜ると正面には、同じ国宝の仏殿が見えてきた。五月晴れの青い空に、緑の芝生が良く似合っている。

それにしても中は広い。ぐるりと回廊に囲まれており、仏殿の先にも国宝の法堂がある。法堂の屋根の薄い緑と、法堂の周りにある木々の濃い緑、それに応えるように薄い緑と濃い緑の芝生。絶妙のコントラストで、参拝する人の心を捉えてやまない、とはこういうことを言うのだろうか。

 二人は法堂に行き、厳かな気分で参拝した。参拝後、二人は元来た道を戻り、瑞龍寺の総門に出て来た。総門を出たところで二人はタクシーに乗り、高岡大仏がある大佛寺に行った。十分ほどで大佛寺に着いたので、里志がタクシー代を払い、車を降りた。

 高岡大仏は奈良の大仏、鎌倉大仏に並ぶ日本三大仏というが、二人とも奈良の大仏と鎌倉大仏は行ったことがあるが、高岡大仏を見るのは今日が初めてである。また、越中三大仏といって高岡大仏と小杉大仏、庄川大仏があるので、二人は列車に乗ってからスマホで検索しようと思った。

 高岡大仏の前に来た二人は台座の上に、あぐらをかいて座っている端正な顔立ちの大仏さんを見ていた。そういえば、ネットに書いてあったが一九三三年、歌人の与謝野晶子が高岡に来た時、高岡大仏を「鎌倉大仏より一段と美男」と評したと伝えられている。そのような美男の大仏さんが今日の青空のもと、二人を見守っておられるような気がして幸せな気持ちになった、ということは言うまでもなかった。

 それから二人は台座の中に入り、一九〇〇年に焼失した木造大佛の頭部や地獄絵などを見学した。見学が終わると、美男の大仏さんをバックに、代わる代わる写真を撮った。その後、二人は高岡駅まで歩いて行った。

 

 二人は高岡駅に着くと、福岡駅までの乗車券を買って、プラットホームに入って行った。すぐに金沢駅行きの列車が来たので、二人は列車に乗り右座席に腰掛けた。列車が十四時三分に出発すると由美子が、

「福岡駅は二つ目の駅だから、八分くらいで着いちゃうわね。それで次の西高岡駅メロは、谷村新二の太陽の季節だって」

「え? そうなの。高岡駅メロは太陽がくれた季節だったよね。そして西高岡駅メロが太陽の季節とは、分かり易くていいね」

「そう。そして次の福岡駅メロは、ジャンニ・モランディの太陽の下の十八歳だわ。里志さんは、この歌がヒットしていた頃、十八歳くらいだったのかな?」

「いや、その歌は聴いたことがあるが、いつの頃だったかは覚えていないよ」

 などと言っているうちに、列車は西高岡駅を過ぎて、十四時十一分に福岡駅に着いた。

 

 列車が福岡駅に着くと、二人は列車を降りて福岡駅舎を出た。これから行くのは、プチ旅に紹介されている「雅楽の館」で徒歩五分、入場料は無料と書いてある。したがって、ゆっくり見学しても一時間以内に福岡駅に戻って来られる。高岡市指定無形文化財の雅楽は、江戸時代末期に福岡町に伝わったとされ、高岡市福岡歴史資料館雅楽資料展示「雅楽の館」には、楽器や装束などが展示されている。二人は館内を見学してから、福岡駅に向かう途中で由美子が、

「里志さん。私たちは柄にもなく雅楽を見て来たけど、江戸時代末期にタイムスリップしたようで楽しかったわ」

「そう。幕末の時代劇を観ているようで面白かった。というよりも勉強になったね」

「次の金沢駅行きの列車は十五時十四分だから、あと十分あるわ」

 と言った。それから福岡駅に着くと、二人は石動駅(いするぎえき)までの乗車券を買った。

 

          五

 

 プラットホームで待っていると、すぐ金沢駅行きの列車が来た。二人は列車に乗り右座席に腰掛けた。列車が発車すると里志が、

「次の石動駅メロは、ゲール・ガーネットの太陽に歌ってです。由美子さん、この歌知っていますか?」

「里志さん、それは無理よ。その歌は私、知らないし、この駅の名前も読めないもの」

「由美子さん、ご免。歌はともかく、石動という駅名は普通読めないよね」

 などと言っているうちに、列車は石動駅に着いた。

 

 二人は列車を降りて、石動駅前からタクシーに乗ると里志が、

「運転手さん。埴生護国八幡宮までお願いします。そして、倶利伽羅不動寺に行ってから、倶利伽羅駅までお願いします」

「分かりました」

 と言って、運転手が車を発進させた。北陸道に出たところで運転手が、

「お客さんは、どちらから来られましたか?」

 と訊いたので今度は由美子が、

「横浜から来ました。長野駅まで新幹線に乗り、長野駅から各駅停車を乗り継いで、金沢駅まで行く予定です」

 と言ったので、運転手がびっくりしたのか、

「えっ! どうして? 北陸新幹線が長野駅から金沢駅まで延長されたのに。わざわざ普通列車に乗って、しかも石動駅で降りていただくとは。何か理由でも?」

「それがね、運転手さん。ある人のブログに、長野駅から金沢駅までの各駅発車メロディが載っていたのよ。そして、あいの風とやま鉄道のプチ旅には、各駅の観光案内が紹介してあるのよ」

「そうでしたか。するとここまで来るのに、何泊しましたか?」

「最初の日は高田で、次の日が糸魚川でした。そして、昨日泊ったのが富山でしたから三泊です。今夜は金沢に泊り、明日新幹線で横浜に帰ります」

 由美子が言うと、暫くの間運転手は考えを巡らしているようだ。

「それにしても首都圏から来られる方は、富山駅か金沢駅で降りられるのに。あいの風とやま鉄道に乗って、さらに石動駅で降りてタクシーを利用していただくとは、嬉しい限りです」

「まあ、運転手さん。それほどでもありませんわ」

 などと里志が、運転手と由美子の会話を聴いているうちに、埴生護国八幡宮の駐車場に着いた。運転手は車の中で待っているというので、二人は荷物を車内に置いたまま車を降りた。二人が参道に入って行くと、左側に木曽義仲像があった。そこから少し歩くと石段があり、百三段の石段を上り切った所に、埴生護国八幡宮の本堂があった。周りは緑の樹木に囲まれており、二人は本堂の前に行き、両手を合わせて参拝した。参拝後、二人は階段を下りて、駐車場に戻り車に乗った。

 

 二人が車に乗ると運転手が、

「それでは倶利伽羅不動寺に行きましょうか」

 と言って車を発進させた。そこから車は倶利伽羅峠の山道を走り、倶利伽羅古戦場本陣跡を通って、十五分ほどで倶利伽羅不動寺山頂の駐車場に着いた。ここでも運転手は車に残り、二人は車を降りて本堂と五重塔を見学した。山の頂上だけあって見晴らしは素敵だった。それから二人は駐車場に戻り車に乗った。二人が車に乗ると運転手が、

「これから倶利伽羅駅に行きますが、その先に倶利伽羅鳳凰殿があるので、見学されたほうが良いと思いますよ」

 と言ったので由美子が、

「運転手さん。ものはついでですから、お願いしますわ」

「はい、分かりました」

 と言って、運転手は車を発進させた。今度は山道を下って行くと、五分くらいで北陸道に出た。北陸道を金沢方面に行くと、倶利伽羅駅を過ぎた辺りから、右手にIR石川鉄道が見えてきた。北陸道とIRいしかわ鉄道の両側には、田植えが終わった田圃や少しの民家があり、そこまで山のすそ野が迫ってきていた。車は竹橋という所を左折して津幡川を渡り、倶利伽羅鳳凰殿の駐車場に着いた。駐車場に車を停めると運転手が、

「鳳凰殿は素敵ですから。私もお供させてください」

 と言ったので、里志と由美子、そして、運転手も車を降りた。里志と由美子は初めて目にした鳳凰殿の全貌に、暫し時を忘れて佇んでしまった。北陸の金沢と富山の間に、しかも周りを山に囲まれた盆地のような場所に、あたかも京都にいるような感覚をもたらしてくれたのだ。左右対称の鳳凰殿と、水を湛えた池に写る逆さ鳳凰殿の見事なバランス。その景色に見惚れていた里志と由美子に、運転手が声を掛けた。

「どうですか? お客さん。素晴らしい鳳凰殿でしょう。見ているだけで心が休まる想いがします」

「そうですわね、運転手さん。それでは運転手さんの素敵なガイドとともに、鳳凰殿の中に行きましょうか」

 由美子が言ったものだから里志も、

「今日は何かいいことがあると思っていたが、このことだったのかな」

 と、お客さんに言われれば、運転手も悪い気はしない。里志たちは鳳凰堂入山料(大人二百円)を払い、鳳凰堂の中を見学した。運転手から詳しい説明を受けた里志と由美子は、見学が終わると駐車場に戻り、車に乗って倶利伽羅駅に行った。

その5に続く。