日本の某所にある、私立坂崎高等学校は、創設者の資産家・坂崎恭三が設立した、自由と創造を校訓に掲げる男女共学の高校だ。

 

 そこでは年に一度、真夏に行われる伝統的な学校行事がある。


 それは野球拳大会だ。


 一学年三クラス、全九クラスから選抜された代表者一名ずつが対戦する。

 トーナメント形式の勝ち抜き戦で、代表者は互いにジャンケンで勝負し、負けた者は着ている衣服を一枚ずつ脱いで行き、脱ぐ物が尽きるか、ギブアップをするまで続けられる。

 一試合勝ち抜くごとに、代表者の男子は一万円、女子は三万円の賞金が与えられ、優勝クラスには全員で行く優勝旅行と、生徒それぞれに賞金一万円が贈呈される。

 

 夏休みに入ってすぐの七月某日、今年もついに坂崎高校の体育館で、熱い戦いが繰り広げられようとしていた。

 

***

 

 「暑ーい!」

 

 私は学校までの道中、朝から照り付ける太陽の熱のあまりの暑さに、思わず声を上げた。

 私の名前は、若月瑠衣。私立坂崎高校の一年生だ。

 まだ朝の八時すぎだというのに、すでに夏日だ。半袖のセーラー服と膝上丈のスカートしか着ていないのに、汗がにじみ出てる。セーラー服の裾を上げたり、スカートをバタバタさせて風を送っても、焼け石に水だった。

 だけど、今日は朝から学校でイベントがある。びっくりするようなイベントだけど、ちょっと楽しみだったりする。

 野球拳大会…? 全然想像はつかないけど、どんな感じなんだろう。まさか本当に裸にはならないと思うけど。

 私のクラスの代表は三杉智恵というクラス委員の女の子。クラスで行われたジャンケン選抜で勝ち残って選ばれた。

 私は二番目だったので、実はやばかったんだよね。

 勝って賞金を貰うのは嬉しいけど、負けたら衣服を脱ぐのは、やっぱり恥ずかしすぎ。でも三杉さんは適任。本人も恥ずかしがってたけど、賞金が貰えるかもって、張り切ってたし。

 「瑠衣!」

 そう思いながら歩いていると、クラスメートで親友の田村千里が声をかけてきた。
 「おはよー」

 「おはよ。千里」

 千里は160センチの私より小柄で、明るくリスの様に可愛い女の子だ。

 クラスメートになって、いちばん最初に話しかけてきて、すぐ仲良くなった。

 「いよいよ今日だねー」

 「うん」

 「智恵ちゃん緊張してるだろうな。クラスみんなでしっかり応援してあげようね!」

 「そうだね」

 私は笑顔でそう言った。

 

 学校に到着すると、クラスメートの高田理名があわてた様子で私に近寄ってきた。

 「瑠衣!」

 「おはよー。どうしたの?あわてて」私は理名に聞いた。

 「大変だよっ。三杉さんが発熱で休むんだって!」

 「えっ」

 びっくりした。まさかあんなに張り切っていたのに…。逆にそれで熱が出ちゃったの!?

 「で、代役なんだけど、瑠衣だから、頑張ってね!」

 「え!」

 「えって、ジャンケン選抜で二位だから、補欠でしょ!」

 うそーっ!突然の事に動揺した。全然心の準備できてないよーっ

 

 この後クラスメートみんなから励まされ、何の準備もする時間もないまま、私とクラスのみんなは野球拳大会の会場の体育館に向かった。

 

 でもこの後、まさか想像を絶するとんでもない戦いに巻き込まれるとは思ってもみなかった…。