人食いバクテリア

 この菌は飛沫(ひまつ)や接触により感染するため、厚労省によると、手指の消毒やマスク着用など、新型コロナウイルス感染症予防対策で知られる「せきエチケット」が重要で、菌の侵入経路となる手足などの傷口を清潔に保つことも有効だという。

 咽頭炎などを引き起こす通常の溶連菌感染症が、どのような要因で命に関わる劇症型に移行するかはよく分かっていない。一方、一般的な溶連菌感染症は子どもを中心に、新学期が始まる時期と冬に流行する傾向があり、同省は劇症型への移行、感染拡大に注意が必要としている。

 STSSが昨年から現在まで増加傾向にあることについて同省は、新型コロナ対策が昨年5月以降緩和されてから呼吸器感染症が増加し、溶連菌咽頭炎患者も増えていることが関係している可能性もあるとしているが、詳しい要因は不明だ。

 
 
劇症溶連菌 感染者急増

一般的な「溶連菌」と「劇症型」の違いは? 

一般的な溶連菌は感染しても無症状のことが多く、ほとんどは発熱、咽頭炎、皮膚の発疹などにとどまります。子どもがかかるイメージを持つ人も多いと思います。

ところが、通常は細菌が存在しない筋肉や血液、肺などに溶連菌が入り込むと、ごくまれに「劇症型」の症状を引き起こします。かかるのは30歳以上がほとんどで、急激に症状が悪化し、発病後、数十時間で死に至ることも少なくありません。

そのため、早期に治療を開始することが重要になってきますが、初期症状は医師でも見分けがつけられないほどです。

命を守るにはどのような点に注意すればよいか、東京都が最新の疫学情報や科学的知見をもとに更新した「医療従事者向けのマニュアル」をもとに、ポイントをまとめました。

注意すべき症状は?

初期症状
 咽頭痛
 発熱
 消化管症状(食欲不振、吐き気、嘔吐、下痢)
 全身倦怠感
 低血圧(敗血症症状)
 筋痛

ただし、明らかな症状がない場合もあります。

後発症状
 局所的な腫れや発赤と痛み(軟部組織病変)
 循環不全
 呼吸不全
 多臓器不全(肝機能や腎機能の異常)
 ショック症状

腫れや痛みが表れる部位に水ほうが起き、そのあと血ほうが出現し、ついには壊死に至ります。このころには診断につながりやすくなりますが、多臓器不全やショック症状が起き、救命が難しくなるとされています。

東京都は、手足の膨張や痛み、発熱などの感染の兆候が見られる場合には、速やかに医療機関を受診するよう呼びかけています。

写真提供:日本医科大学付属病院

感染経路は?

感染症が専門の東京女子医科大学病院の菊池賢医師は、「本人も気づかないほどの、小さな皮膚の傷でも、菌の侵入門戸になる」と指摘します。そのため、「手術の縫合部位や床ずれなどの傷だけでなく、靴ずれや水虫など、小さな傷でも放っておかず、清潔に保つことが重要」といいます。

一方、感染者の約半数は感染経路が不明とされています。
東京都は、飛沫感染によっても感染することがあるとして注意を呼びかけています。

菊池 賢 医師(東京女子医科大学 感染症科 教授)

リスクが高い人は?

東京都は、特別な基礎疾患を持たない人でも発症することが多いとしています。

東京感染症対策センター所長の賀来満夫さんによると、40代の感染者が増えていることや、まれではありますが小児での感染例も報告されているため、あらゆる世代で注意が必要ということす。

東京感染症対策センター所長 賀来満夫さん

その上で、以下に該当する人は特に注意が必要だと指摘します。

高齢者

糖尿病など基礎疾患のある人

妊婦

妊婦が劇症化するケースは、年間数例と決して多くはありません。

しかし、妊婦が劇症化すると、進行が急速で死亡率が極めて高いため注意が必要です。