冗句105
■アナウンサー
「先輩、もう疲れました」
「なにが?」
「ニュースを伝えるとき、表情を出さない、感情を込めない、って」
「それがニュースキャスターの仕事でしょ」
「でも、わたしって、ふだん天然で、ゲラじゃないですか。本当の自分を押し殺しているようで……」
「あなた、そんなこと言っているけれど、わたし、この前、録画を再生していて気がついたの。あなた、芸能ニュースのときは、笑みを浮かべているわね。それに、天気キャスターにつなぐときにも」
「エッ、そんな」
「一瞬だから、マニアでないと気がつかないわ」
「ごめんなさい」
「いいの。それがいいの。わたしはマネをしろって言われてもできなくなった。感情を殺せ、って教わって、それを忠実に守ってきた結果よ」
「でも、先輩のアナウンスは、業界ナンバーワンだと聞いています」
「気を付けなさい。カレの前では、仕事を忘れるのよ。おかげで、わたしは……」
「わたし、いつも、目の前のカレにしゃべっているつもりで、ニュースを伝えています」
2022.8.27.